☀ひだまりスケッチハニカム☀
ヒロと紗英の卒業旅行編
第1章
筆者 かがみん萌え
2月下旬・・・
ここは、私立やまぶき高等学校美術科2年教室・・・
SHR時間・・・
「は〜い・・・この春休みが過ぎますと、皆さんも3年生に進級ですね!・・・学習態度においても最上級生としての自覚を持たなければならない年頃です・・・」
教卓でシビアに指導する吉野屋先生だが・・・
「とは言っても・・・今は2年生だ・か・ら(はあと)・・・在学中の3年生に甘えて良いのですよ(うふ)」
担任教師とは似合わず乙女チックな態度で表現した・・・それに似合った女の子用の可愛いらしい衣装で披露もすると、生徒達が半ば呆れる。この時期の3年生は進学及び就職準備のため、普段は休みになっているが・・・
「吉野屋先生!・・・あなたも教師としての自覚を持ってくださいね!・・・(怒)」
「だってえ〜・・・先生だって少しは甘えたいよ〜・・・毎日毎日仕事じゃあ〜・・・つまらな〜〜い!!」
「毎日毎日ではなかったですよ!・・・全く!(怒)」
その背後に・・・顔の長い年配の校長先生がやって来て、ワガママな彼女の頭を突いた!
「という訳ですから・・・来月の春休みを前に・・・生徒達には、是非とも建物の風景画を宿題にしたいと思います・・・」
「えええ〜〜〜!!!」
だらしない担任をはね除けて・・・校長先生が身体をガクガク揺すりながら課題を出すと、全員が大声で唖然とする・・・
「3年生か・・・先輩らしく頑張らなくては!・・・乃莉ちゃんとなずなちゃんも2年生に進級するんだよね」
「ゆのっち〜・・・春休み前の宿題、どんな建物を描く?」
1人の小柄な女子生徒・・・ゆの(CV:阿澄さん)が堅く決意すると、天真爛漫な宮子(CV:水橋さん)が横から話かけてくる。
「あっ!・・・宮ちゃん・・・まだ、決めていないけど・・・」
「じゃあ・・・次の休日に旅行でも行こうよ!」
「えええ〜〜・・・何故旅行なの!?」
「旅行で色んな建物の見学ができるから、そこで画作しちゃおうよ・・・好きな建造物が選べるよ」
「だ・・・だって・・・旅費もまだ準備していないし・・・短い休日にどうやって目的地と宿泊場所を決めるの?」
「直に探せばいいよ・・・それに、ヒロさんと紗英さんがもうじき卒業するから、その記念にもね」
「卒業旅行かあ〜・・・うん、きっと喜ぶでしょうね」
宮子の思いの寄らない計画にゆのもつられて賛同する。
「「”ほうかご〜〜!!”」」・・・UMEより
ひだまり荘101号室・・・連休の旅行について、ヒロの部屋でみんなが集合した。
「とう訳なんです・・・ヒロさん」
「折角だから卒業旅行って感じで楽しもうかなと思いまして・・・」
「あら・・・卒業旅行?・・・いいわね・・・でも、費用が安く手軽な場所のほうがいいわよ・・・私もアルバイトで稼いだお金はあるけど、そんなに高くは頂いていないから・・・」
ゆのと宮子が勧めると微笑むヒロ(CV:後藤さん)も賛同する。面倒見の良いお姉さん的な美術科の3年生で、ゆの達の頼れる先輩である。学生とは思えない程の良妻賢母であり、彼女から夕飯と朝食を良くご馳走になっている。
「あたしの書いた恋愛小説が本になって出版できたから、収入は少しあるけど・・・」
「さすが紗英さん・・・作家は儲かりますな・・・おっほっほっほ!」
紗英(CV:新谷さん)・・・ヒロとクラスメートの美術科3年生。ショートヘアの才色兼備な女子高生であり、彼女も学生とはかけ離れたプロの小説家である。
その実力で稼いだお金を見て、お嬢様の真似して微笑む宮子・・・金欠な性格なだけに頭の回転力に富む彼女の算出力は4人分の旅費は十分にあると見た。
それを小耳に挟んだかのように、2人の女子生徒が部屋にやって来る・・・
「旅先で絵の描くって、良い提案じゃないですか・・・ちょうどあたしも絵の宿題があったんですよ」
ゆの達とは1つ後輩の美術科1年生・・・乃莉(CV:原田さん)がわくわくとした。関西出身の女子生徒で、何事もはっきり言う性格である。
「旅行!?・・・わ・・・わたしも行ってみたいですぅ・・・」
色白で細身の美少女・・・なずな(CV:小見川さん)も実は行きたがっていた・・・彼女も後輩に当たるが、唯一学科が違う普通科の1年生である。
「すると6人で旅行か・・・費用が少し厳しくなるかな・・・」
紗英が旅費のことで頭を悩ます・・・全員で集めたお金は6人分までは足りないようだ。
「あっ!・・・その心配は無いですよ・・・あたしがネットで格安プランを探してみますよ」
「あら、助かるわね・・・」
乃莉は早速、自分の部屋に戻って自前のパソコンで各割安旅行を検索してみた。一緒についてきたゆのと宮子となずなが注視している・・・
「あったあった!・・・丁度6人分の団体旅行割引ツアーを検索しましたよ!・・・旅館も広くかなり高級らしいです・・・今で予約しておけば、更に割引も利くらしいですよ」
「おお〜・・・うってつけの情報収集家・・・乃莉っぺ、助かるぅ〜!」
「み・・・宮子さん!」
「じゃあ・・・みんなで仲良くお泊まりができますね・・・うふふ」
「これで、楽しく旅行に行けるね・・・良かった」
より安く、より良い旅行先が見つかって、なずなとゆのが上機嫌だった。
「では!・・・今から、ベリマートで卒業旅行の買い出しに行こう!」
「宮ちゃん・・・こんな遅くから何を買うの?」
「まあ・・・旅行に必要最低限のものを買わなくては・・・あと、画材も沢山必要だね」
「画材は残っているものが十分にあるでしょ」
「画期的で芸術らしい建物があるかも知れないからね・・・」
「いや・・・芸術も何も画期的だから特別に必要だってことはないと思いますけど・・・」
宮子が意気揚々と声を上げると、ゆのと乃莉が唖然とした。
6人は連休の旅行に備えて、ベリマートと呼ぶスーパーマーケットで買い出しをした。
「なずな・・・それって?」
「これは、その・・・船酔いしないための・・・」
「酔い止め薬?・・・でも、今回の旅行は新幹線で行くから大丈夫だよ」
「乃莉ちゃん・・・そ・・・そうだね・・・ごめんなさい」
「別に誤ることないよ・・・恥ずかしいことでないから・・・」
薬局コーナーで、乃莉がこっそりと尋ねた途端、なずなが赤面する。可愛らしくもおどおどするその姿を紗英がなだめる。
「え〜と・・・あったわ!」
「あっ!ヒロさん・・・それは・・・」
その隣の陳列では、ヒロが何かを選んでいる最中にゆのが気づく。
「カロリミットファンケルだね!」
「ええ・・・旅行中はつい食べ過ぎてしまうから・・・そのために錠剤の多いものがいいけど・・・」
「う〜ん・・・ヒロさんのスイーツ量は、1日の摂取するカロリミットの目安量では抑制出来ないからね・・・」
ゴ〜〜〜〜ン!!!
「悪かったわね!!!」
ダイエットのことで気にしているために、嫌みとなって聞こえたのか・・・カロリー量のことで都合良くちょっかいを出した途端、激怒するヒロが宮子の頭を強く突いた・・・そして、でかいこぶを出した・・・
「後で、わたしにも少しお裾分けしていいですか?」
「ええ・・・いいわよ」
ゆのも自分の体質に自身がないため、ヒロの購入するダイエットサプリを欲しがっていた。他のメンバーはダイエットという言葉にはどうやら関係なさそうだ・・・
そして文具コーナーへ向かうと、宮子が必要以上の画材を購入しようとする。油絵の具とペインティングオイル、ネオクリーナー、そして顔料用カラーインクも取り出した。
「宮ちゃん!・・・顔料インクなんて使うの?」
「うん、鮮やかな発色が魅力的だからね」
「魅力的ね・・・」
校長先生に出題された風景画を描くだけだのに、彼女の絵画とは一体どのようなものなのか?・・・ゆのは気難しくなった。
それから買い出しを終えて6人のメンバー達は、楽しくおしゃべりしながらひだまり荘へ戻った。そして、次の休日に楽しみを待つ。
「「”きゅじつのあさ〜〜”」」・・・UMEより
小鳥の鳴く日差しの良い朝・・・太陽の照る涼しい青空は、まさに旅行日和であった。今日は待望の卒業旅行当日である。
ひだまり荘203号室・・・
ポットの沸く音だけのごく静かな部屋・・・ベッドで温かい苺ミルクをすすっている最中・・・
”ピンポ〜〜ン!!”
「な〜ずな!!・・・もう、出かけるよ〜!」
「あっ!・・・はい!・・・ちょっと待って〜(涙)」
その静寂を破るかのようにドアホンを鳴らす乃莉の声が聞こえた。時間を忘れてしまっているなずなは慌てふためく身繕いした。
そして6人が階段前に集まった。初めてのメンバーだけの旅行にみんなが心うきうきとした。
そこで、お姉さんのような面倒見のよいヒロがみんなに伝える。
「駅のチケットはみんな揃えたかしら?」
「大丈夫よ〜、入念にチェックしているって」
「宿泊用の着替えと課題用の画材もちゃんと揃えてあります」
「忘れ物しても後戻り出来ないわよ」
旅行バッグやかばんに入っている荷物の最終確認を行った後、ヒロが調子よく乙女チックな微笑みでウインクした。
「そう言えば紗英さん、妹の智花ちゃんも行きたがっていたんじゃないですか?」
話を変えて、ゆのが紗英に尋ねる。
「智花はブラバン部の合宿練習で、この1週間いないから大丈夫よ」
「確か・・・ブラバン部は、選抜野球大会出場のための校歌演奏をしなければならないからね」
よく言えば・・・今期のやまぶき高校野球部は強豪な部員のおかげで地区優勝していたため、ブラスバンド部も初の合宿練習があった。その情報を同学年の乃莉は知っていた。
雑談が終わり、階段を下ったところで、煙草を銜える大家さんが丁度良くやって来た。
「大家さん・・・じゃあ、行ってきます」
「ああ・・・行ってらっしゃい・・・留守番はしっかりとしておくからね」
「助かります」
ゆのが大家さんに部屋の鍵を預けると、笑顔で挨拶をした。その無邪気な後ろ影を見て、何かしら憂いを帯びた。”若いのは明るくていいな〜”・・・と。
「よ〜し、でっぱーつ!!」
「それを言うなら出発でしょう」
調子に乗りすぎたのか・・・宮子の言葉間違いに紗英がたしなめる。
ひだまり荘から出た途端、紗英は同学年の顔見知りの女子と出会った・・・
「あっ!」
「さ・・・紗英!」
夏目である。入学当時は一緒だったが、今は互いに離れてしまっている・・・とは言っても、まんざら仲違いしたわけではないが・・・
「夏目・・・あんたも卒業旅行とかはいかないの?・・・もし良かったら・・・(汗)」
「べ・・別に気にしてなんかないわよ(焦)・・・・まあ・・・あたしはこれから部活のメンバー達と最後の練習に行かなければならないからね・・・」
「はあ?」
何を嫉妬しているのか?・・・彼女の拒む要素は紗英には届いていないようだ。
「さあ・・・早く行きましょう・・・紗英」
「え、ええ・・・」
それを何食わぬ顔でヒロがおもむろに連れて行く。
出発駅の停留所へ新幹線を待ち構えている途中、旅行の拠点となるべきことに気付く紗英が乃莉に話してみた。
「そう言えば乃莉・・・この旅行先は?」
「あっ・・・皆さんに言い忘れてました・・・まず、今日はこの駅から栃木の宇都営駅まで向かって、その後、バスでイロハ坂を経由して、え〜と・・・国立公園で自由時間、そして温泉旅館で1泊・・・2日目は住宅周りの公園で見学して海辺のペンションで1泊・・・3日目は美術館を見学してこの新幹線で帰宅・・・というコースです!」
乃莉が自作したしおりと旅行の地図をみんなに手渡した。見学するための目的場所と宿泊場所がより具体的な内容で記されているため、わかりやすい。ただ、手書きがほとんどのためか、字の執筆が可愛らしいく、また女の子らしいキャラクター入りの落書き等が描かれている。
「身近な旅での2泊3日か・・・この連休3日間が充実できそうね」
「まあ・・・あたしとヒロの卒業のための記念でもあるからね」
「よーし、これから短い卒業旅行を楽しむのだ!」
「あなた達は、まず絵の課題が先でしょうが!」
溌剌さとともに宮子が声を上げる・・・又々紗英は呆れたような感じで彼女の頭にチョップする。
宇都営行きの新幹線でゆっくりくつろいでいる6人・・・都心から、村、そして田園へと強制移動するスクロールのように窓の景色を注視している。その中でゆのが何かを指差した。
「あっ!・・・かかしさんが沢山いる」
「あら、綺麗に纏まっているわね」
「精魂込めて耕した畑を鳥獣に荒らされないようにしてあるのよ」
田畑に複数のかかしが縦横と規則正しく並べられているのが見えた。その風景をヒロと紗英も注目した。
その雰囲気を眩ますかのように、1人のお調子者が面白い行動に出た。
「つまり・・・こう言うこと・・・なんだよね・・・!」
「み・・・宮ちゃん!・・・危ないよ!」
「おおっ!・・・何かスリルあって楽しいな〜♪」
「ちょっと、やめなよ!」
かかしと聞いて何を連想しているのか?・・・いわゆる1つのジェスチャーな感じなのか?・・・ゆのと紗英の注意も上の空の宮子が電車の吊り輪でぶら下がって遊んでいた。そのはっちゃけた姿を見て、周りのみんなも唖然とした・・・
栃木の宇都営駅で・・・
新幹線から下車したゆの達6人一行・・・そこで、女性バスガイドが旗を持って駅前で待っていた。ここからの旅行案内人としてお世話になるのだろう。プラットホームでは、外来者歓迎のための地元ポスターや垂れ幕などが張られている。
「初めまして・・・宜しくお願いします」
「ええ・・・こちらこそ宜しくお願いします」
ゆのが先頭を切ってバスガイドに丁寧に挨拶をすると、後方に並んでいるお客さん達も同様に従う。団体旅行としてのマナーを守っている素直な客達に、応対するガイドさんもご感心な様子だ。
観光バスにお客さんが全て座席に座った時、バスのドアが自動的に閉じた。運転席の横でバスガイドがマイクで会釈する。
「皆さん、初めまして・・・私は鹿目と言います・・・このバスの運転手は前原さん・・・この3日間の短い旅行だけど、皆さんとお世話になりますので宜しくお願いします・・・今からこのバスは日光の国立公園まで向かいます・・・目的地までの時間は約1時間です・・・」
「あの湖の見える高台のことかな?」
「日光を経由するから猿が出現するかもね」
「自由時間だって・・・乃莉ちゃんが言っていたわね」
きょとんとした感じのゆのと宮子が呟く。それをヒロが手元のしおりで指差す。情報を得て作成した彼女の旅程は予想通りだった。
ここから3日間のバスツアーが始まる。観光バスの走るその先にはイロハ坂が見えた。急坂と急カーブの多い奥の細道のようだった。ガードレール沿道の険しい路肩にはカタカナ1文字の描かれている標識が一定距離ごとに立てられている。サイドミラーがぶつかりそうになりながらも、この狭い車線を大型のバスが難なく通行する・・・この運転手の技術も大したものだ。
「イ・・・ロ・・・ハ・・・二・・・ホ・・・ヘ・・・ト〜・・・・」
通過する標識のタイミングに沿って宮子が鼻歌を歌っていた・・・どうやら、自分の世界に入っている様子だ・・・その不穏な声が周辺に聞こえている・・・
「宮ちゃん・・・」
「この坂の最頂上までには24文字が記されているんですよ」
ゆのが唖然とすると、苦笑のバスガイドが答える。
「え〜と・・・『マ』が最頂上なのかな?」
「馬返(うまがえし)と中禅寺(ちゅうぜんじ)湖畔とを結ぶ坂道なんだ・・・かつては峠のような山道だったが、乗用車も通行出来るように改修されていてね・・・高度経済成長時期時代には、交通渋滞の緩和のために第2イロハ坂も完成されているんだ」
「へえ〜・・・」
「登り坂の起点から下り坂の終点までの道のりに、イロハ詩の48文字が順番良く立てられている・・・だから『イロハ坂』なんだよ」
ゆのがあどけない口調でほっぺたに指差すと紗英がクールに説明する。メンバーの中でも博識な彼女に、あのバスガイドも納得した。
雲仙と呼ばれる程の坂の途中に、目的地の華幻滝にたどり着いた。国立公園に属する名勝の滝である。この時期の流量は少ないが、滝の流れる音は大きい。気温も低く、氷柱がぶら下がっている。
「うう〜・・・寒い・・・」
「何か凍えるような感じ・・・雪降っている場所も見えるね」
なずなが寒そうに震えているのを見て、乃莉がベージュ色のストールをそっと羽織っている。
「雲に近づく高山だからね・・・現在の栃木の気温は8℃だからこの高さでは更に冷えるよ・・・海抜0mからだと標高100mごとに0.6℃下がるからね」
「あっ、そうですね・・・紗英さん」
乃莉は自分のスマホで現在の気温を検索した。彼女の気象予報は当たっていた。
「おお・・・絶景だ!」
「もう、宮ちゃん・・・危ないわよ」
険しい滝の上部から宮子が見下ろした。それをヒロがしっかり捕まえる。
「風が吹くから、体感気温も低くなるわね」
「ふえ〜・・・周りの観光客も寒そうだよ〜」
ゆのの答える目的地の気温を聞いて、ヒロが体を揺すぶっている。もじもじするなずなは周りを見て、ため息を吐いた。その息はモクモク煙のようにそよ風に添っていく・・・羽織っているストールが見えない状態になるまではっきりと見えている。水流の影響で露天温度も高そうだ。
「騒々しくて、ここでは絵が描けませんね・・・」
「取り敢えず・・・みんなで写真だけでも撮っておこうよ」
絵画に関しては、険しい滝つぼを見て乃莉が取り止める。ゆのはリュックサックからデジカメを準備して撮影を行う。タイマー機能をONにしてシャッターを押す。その直後に彼女がみんなの前にタイミング良く並ぶとフラッシュが光った。そのカラー液晶には、5人の姿にはしゃいでいる宮子のVサインポーズも写った。
夕暮れになり1日目の宿泊・・・特別観光ホテルというわけでなく、2階建ての和風的な温泉旅館だった。エントランスのテーブルに並べられているパンフレットには、このホテル特有のお得なプランが載ってある。何らかの組合会員としての理由でこの場所を選んだためでもあるのだろうか・・・
「ここが初めお泊まりになる場所だね・・・温泉の匂いが漂ってくるよ〜・・・」
「硫黄のような匂いがまか不思議だね」
でも、中は意外と広く各室内の設備も充実していそうだ。シーリングライトが美しく輝いているロビーは、初めて訪れるゆのと宮子にとって快適な空間が味わえる。
入浴は観光客の先着順番待ちになっている。フロントからのチェックインを済ませた後、6人一行は荷物を各自ロッカーに閉まっておいて更衣室へと向かう。脱衣した後に露天風呂へ向かうと、そこは自然の空間・・・温泉のように湧き出ているその浴槽には庭園や周辺の山々も見られて開放感も抜群だ。
「とても気持ちいいな〜・・・温泉ってこんなものかな?」
ゆのが両手に息を吹かせてみた。湯気はモクモク煙のように舞い上がっていく。
「外は寒いから・・・逆にあったかく感じられますな」
「和台の温泉だよね・・・美肌にも効果があるらしいね」
宮子と紗英が胸元からバスタオルを巻きながら無色透明の湯槽に浸かっている・・・
「みんないいな・・・」
彼女達の胸囲をなずなが羨ましそうに見つめていた・・・
「なずな〜・・・何見てるんのさ!!」
「きゃああ〜!!」
その咄嗟に乃莉が彼女を触感した。
「やはり感じ無いな・・・」
「ひどい・・・(涙)」
「乃莉さん・・・あまりなずなちゃんをからかっては可愛そうですよ」
「あっ・・・すみません」
触られて泣き始めるなずなを母性愛のヒロがいたわるようにかばってあげた。
その時、宮子が片隅に何かを見つけた・・・
「おお!・・・サウナ室もありますな」
湯槽から突如上がって、興味津々と入ろうとする。
「宮ちゃん・・・」
巻きバスタオルを押さえながらゆのもこっそり覗いて見た・・・室内にはダイヤル温度計が掛けられていた。高温多湿のサウナに2人の体内から汗が滲み出てきた。
「何か蒸し暑いけど、良い感じだね・・・(汗)」
「ゆのっちはサウナ初めてなの?」
「ええ・・・一応・・・(汗)」
「あっ!・・・そうだ!」
この時、宮子は何かをひらめかせた。
「ヒロさんは、こっちの方がいいですよ〜!・・・汗で体内の脂肪が減ってダイエット効果抜群だから!・・・ゲボッ!!」
こりもせずにヒロに声をかけると、いきなり洗面器が飛んできた!
「余計なお世話よ・・・全く!!」
顔面に当たった宮子は血反吐を放出して、後方に倒れていった。
「宮ちゃん・・・大丈夫?」
それをゆのが呆れ顔で彼女を見つめていた・・・
ここは宿泊室のシャトレ・・・6畳間の和室に冷蔵庫とテレビがついている。小さな卓袱台には、ポットと人数分のお茶袋にコップが準備されている。
なずなと乃莉の2人がぽかぽかこたつでお話をしていた。
「乃莉ちゃん、あったかいね!(えへ)・・・外はすごく寒かったよ〜」
「夕食だったけど・・・とても美味しかった・・・陶板焼きにしゃぶ肉も入っていたしね」
「うん・・・わたしはカニ玉子焼きがよかった」
「温泉玉子だもんね・・・あれも確かに美味しかったな」
「あと、デザートの柏餅も甘くて美味しかった」
「何か会席料理みたいな感じだったよね・・・結構高かったんじゃない」
「学校の修学旅行もこんな感じだったら最高だよね」
「紗英先輩達が折角あたし達の分まで旅費を考えてあげたんだから、後でちゃんとお礼しなくちゃね」
「は〜〜い!!・・・お休みなさい」
お話を終えると、なずなはこたつから出てお布団で自分のぬいぐるみを抱えて眠り始める・・・
そして、すぐ隣のひまわり室・・・8畳間の和室で真ん中に高級なテーブル、液晶テレビ、冷蔵庫、その上部にクーラーとしっかり備えており、床通路に見晴らしの良い窓や個室トイレまでついている。
そのゆったりとした部屋でゆの、宮子、ヒロ、紗英の4人がパジャマトークを進めている。彼女達のお風呂上がりのヘアーはシャンプーの匂いが漂ってきそうだ。
「紗英・・・そういえば私達って、今期2度目の旅行になるわよね」
「そうね・・・学校の修学旅行を合わせてだけどね」
ヒロがブラシで髪型を整えている最中、紗英は自分の眼鏡の手入れをしている。この場合でも2人の会話は上手く繋がっていた。
「紗英さん達の修学旅行では、確か北海道でしたよね」
「学校の旅行って毎年変わるらしいからね・・・」
「まあ・・・旅費の予算に考慮したツアーって想定外ですからね・・・」
彼女達のトークがしばらく続くその時・・・
「あ・・・」
「スヤスヤ・・・」
この時、ゆのが無邪気な姿でうたた寝している。
「ゆのっち寝ている」
「うふふ・・・やっぱり寝方も可愛いわね」
「初めての旅行だったらしいから、きっと疲れているんだよ」
ヒロ、紗英が微笑みながら見つめている。宮子はゆのを布団で寝かせてあげた。そして、静かな声でそっと言った。
「おやすみ・・・」
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