☀ひだまりスケッチハニカム☀

ヒロと紗英の卒業旅行編

 

第4章

 

筆者 かがみん萌え

 


 

「「”旅行3日目の朝〜〜”」」・・・UMEより

 朝方の午前6時・・・ゆの達5人が音楽のリズムにノリながらラジオ体操を行っている。しかし空はまだ暗く、外の庭をひんやりさせている。露天温度も低くて、とても寒そうな感じだ。メンバーの1人、ヒロは2階の部屋でまだ夢の中のようだ・・・

「朝ほーなう・・・」

 寒さにも負けない褞袍〈どてら〉姿の宮子が仁王立ちした後に声を上げた・・・快適感情になりきっている溌剌とした笑みで何かと意味不明な発言を漏らしていた。

「相変わらず元気ですね・・・」

 ため息をつく乃莉は、逆に力の出ない声だった・・・

 

  体操が終わって部屋に戻った後、外はようやく明るくなってきた。別荘の屋外照明が自動的に消灯し、日が昇る前の清々しい朝が巡る。ゆの達は速やかに洗面を終え、ダイニングルームへと向かう・・・しかし、朝食はまだ準備はされていなかった・・・

「あっ・・・ヒロはまだ寝ていたね・・・そろそろ起こしに行かないと・・・」

「わたしも一緒に行きますね」

唯一食事の日課となっているヒロに気付く紗英とゆのが2階の部屋へ向かった。

「ヒロ、起きて・・・朝だよ!」

  ベッドで気持ち良さそうに横たわっている姿を今度は2人で起こそうとする!

 「う〜ん?・・・今度はな〜に?・・・紗英・・・」

可愛らしくも泣きそうな顔で目を覚ます。

 「あの・・・朝ご飯まだですけど」

 「お願い・・・もう少し寝かせて(涙)」

  しかし・・・言っている事がどうやら通じなかったらしい・・・毎度のように朝に弱いヒロは2度寝する。

 「今日もダメだったね・・・あたし達で準備しようか・・・」

「はい・・・じゃあ、ハムと目玉焼きは作りますね」

  2人は呆然とした後、ダイニングルームへ戻る。

「朝ご飯まだ〜・・・」

  ドア開けると・・・・突然と、元気なさそうに宮子がお腹をさすりながら、テーブル席にへばりついていた。

「宮ちゃん・・・今支度するからね」

「今日もヒロが起きないから、あたし達で何とか作ろう・・・」

 宮子に急かされながらも、結局は紗英が朝食の準備をしている。今回はゆのも手伝ってくれているものの、6人分の支度をしなければならないので結構大変だった。しかし、毎度のように朝に弱いヒロのフォローをしているため、彼女にとっての調理は手慣れたものだ。

 

「皆さん、朝ご飯出来たよ・・・!」

ゆのが声を出すと、全員がダイニングルームにやって来た。

「おはようございます先輩達!」

 乃莉となずながテーブルに着席して、出来上がった朝ご飯を見つめる。

「今日は、目玉焼きとベーコンにご飯と味噌汁だよ」

「目玉焼きはわたしが作ったんだよ」

「何か普通って感じしますね・・・」

「ええ〜・・・そうなの?」

オーソドックスな献立に乃莉がきっぱり言った。それを聞いてゆのが動揺する。

「でも、美味しそうだよ・・・6人分で手間がかかるから、仕方がなかったんだよ、きっと・・・たまにはゆのさんの手料理も食べてみましょうよ・・・」

なずなは微笑んで諭す。少し品のない盛り付けだが、焼きたての良い香りがしているので味のほうは保証出来そうだ。

 「ふ〜・・・余は満足!」

「もう食べたんだ・・・早っ!」

しかし、盛りつけ方や味とはお構いなしに宮子がすでに自分の朝食を食べ尽くしていた。おとぼけ顔で食後のお茶をすすっている彼女の様子は平常心になっていた。

 

  旅行ツアーの最終日・・・観光バスは、次なる目的地・・・千葉方面の美術館へ向かった。市内の大通りをしばらく通過して、そこから右へ曲がると『アートミュージアム』と屋上壁の画板に書かれてある建物が見えた。敷地はかなり広く、大型車が数台入る程の無料駐車場も完備されている。美術科専攻の学生達にとっては、良い学習にもなりそうだ。

 「ここが・・・市内唯一の美術館です・・・チケットは各自で受付の方に手渡してくださいね」

バスガイドが受付窓口の女性に館内入場への許可をとり、観光客に指示を出す。エントランスでは、入場料金が一律に決められている立て札が見える。どうやら、この美術館は有料らしい。普段は1人当たりの入場料が必要となるが、旅費に含まれているため、観光客達は手渡された割安チケットで特別無料になっている。

そして、中へ入ると壁面は真っ白で開放感がある。多少開くだけですんなり入る程の広さもある。更に奥のロビーでは、2階へ上がる螺旋式の階段で真ん中にシャンデリアが照らされており、1階から見上げると、これはまた神秘的な空間だ。

 「この館内では、唯一歴史のある作品も多数展示してあります・・・この機会に良い勉強になりますので、ゆっくりご覧になってくださいね」

アートギャラリーへ向かうと有名な画家達の絵画が壁面に掛けられていた。観光客達は一列に並びながら作品を1点1点と見つめていく。

「あら・・・いいわね!」

「わあ・・すごい!・・・みんな本物なんだよね」

思わず、ヒロとゆのは声を出した。

「ここの旅行の方々のために、学芸員達がわざわざ準備してきたんですね・・・」

この時期の千葉県内では、修学旅行で訪れる学生達や海外旅行で訪れる外人達が多いために特別に展示替えを行っていたのだろう・・・乃莉はそう思った。

「ゲ◯ニ〜カ!・・・モ◯リ〜ザ!・・・バー◯・オブ・ヴィ〜ス!・・・」

 その時、観光客のいる前で宮子は何かを言い始めた・・・タイトルや人物名も確認せずに、展示されてある絵画だけ見て次々と答えている。

「ちょっと宮子!・・・声が大きいわよ!・・・静かにして!」

「いや〜・・・外人さんが多いのですから・・・」

紗英は赤面しながら、同行である彼女の口を強く押さえる。外国人達が近くに訪れているため、調子よく外国語で発言していたらしい・・・アクセントが完全にずれている様子も覗えたが、それを聞いている彼らにとって何か面識のあるような反応はしていた。

 

「あっ・・・『雪船』だ!」

ゆのが画集コーナーで展示されている水墨画に目をやる。

「この美術館にもこんなものが展示されているなんて・・・」

「これって重要文化財の1つですよ・・・あたし達って、タイミングよくツアーに来ていると思いませんか?」

  ここは、ゆっくり鑑賞しないと損・・・ヒロと乃莉が貴重な水墨画を眺めて感嘆の声をもらした。

この時、なずながあることを決意する。

 「決めたわ・・・わたしも美大に受験してみます」

「なずな・・・ついに美学に目覚めたの?」

乃莉は意外な顔で見据える。

「うふふ・・・この絵画展を見て素晴らしいなっと感じたんです」

「なずなちゃん・・・良い勉強になったんじゃない」

「ええ、学科は普通科だけど・・・一生懸命に頑張れば、きっと叶えられるなと思って」

 みんなと一緒に絵を描いたこと・・・そして、有名な画家達の作品を直で観て感動したなずなは、美術系の学校へ進学することを夢にする。

「きっと叶えられるよ・・・もし同じ大学に進学できたらいいね」

「ありがとう・・・ゆのさん」

満面な笑みを見せながら励ますゆのは寛大だった。そんな彼女になすなは再びお礼をする。

 「言っておくけど・・・この旅行は、あたし達の卒業記念のためであるものだからね」

「あら、良いじゃない・・・なずなさんの将来の目標ができたから」

素直に言えない紗英をヒロが微笑んで諭す。

 

  ぐ〜〜〜〜!

「あ〜〜・・・腹減った・・・」

長時間も見学したためか・・・お昼時間頃になると、この場所でもまた、宮子は空腹の警報を鳴らしている・・・

「宮ちゃん・・・ここでは飲食禁止だから、一端待合所へ行こうよ・・・」

 

屋上の待合所で・・・朝で密かに残したゆの手製のサンドイッチを進めると、ようやく警報が解除された。

「あ〜・・・満足、満足」

2個のサンドイッチを頂いて、宮子がお腹を摩しながらベンチでゆったりする。

「宮ちゃん・・・ここって、何か不健康を感じない?」

「う〜ん・・・煙が結構うざいですね・・・」

しかし・・・よく見ると、周りは大人ばっかりで喫煙者が多かった。隣のベンチでもふかふかと煙草を銜えながら居座るおっさんもいた。

「心細いから・・・そろそろ戻りまっか」

「うん・・・そうだね」

周囲の慣れない雰囲気で緊張する2人・・・健康的にも良くなさそうだったため、さすがに長居は無用のようだった。

 

美術館の見学を終えた後に、6人メンバーは近くの百花屋の喫茶店へ寄った。お昼時間が過ぎてしまったために、腹ごしらえとして時間をゆっくり過ごすのも楽しみの1つでもある。

  ドアをくぐると、若いウェイトレスが”いらっしゃいませ”と気持ちの良いかけ声で迎えてくれた。そして、空いている窓際の卓にご案内して気遣いよく良くメニュー一覧をテーブルに置いた。

ゆのは苺サンデーとオレンジジュース、ヒロはショートケーキと紅茶、紗英はトーストとコーヒーを頼んだ。

「チョコレートババロア!」

宮子は欲張ってスペシャルパフェを注文する。

「宮ちゃん・・・これってかなり高いのでは・・・」

 オーダーの金額を見て、ゆのが唖然としている。しかし、宮子はすでに目をキラキラ輝かせた。

「あんた・・・さっきまでサンドイッチ食べていたんじゃないの?」

「大丈夫・・・デザートは別腹だから」

「お金、持っていないでしょ」

「あっ!・・・そうだった!・・・ゆのっち・・・金貸して・・・」

「宮ちゃん・・・(涙)」

「やっぱりそう来たな・・・」

うっかりした後に、おねだりを申した・・・同じクラスで言いやすいためか、結局、ゆのが宮子の分もおごることになる。財布を開けて確認すると残金も少ないため、”とほほ・・・”と涙声で息を吐く。それを聞いた紗英が呆れ顔でつぶやいていた。小遣いなしの彼女が高級なスイーツを選んだ後、どうするかはもう予想がついていた。

「なずなは、何を注文するの?」

「わたしは乃莉ちゃんとおんなじでいいよ」

「じゅあ・・・私となずなはアップルパイとミックスジュースをお願いします」

「かしこまりました」

乃莉は2人前のメニューをウェイトレスに頼んだ。

 

そして・・・一行は、ゆったりとお話しながら注文したメニューを待つ・・・

 

その息抜きの最中、外を眺めている宮子が何かに気付く・・・

 「ん?・・・ちょっと・・・みんな、あれを見て!」

 「げっ(やばっ)・・・あれって吉野屋先生じゃないの?」

  紗英も窓際から覗くと・・・向こう側の商店街通路で、あの吉野屋先生がバニーガールのコスプレ姿ではしゃいでいるのが見えた・・・悲しそうな笑顔で、プラカードを持ちながら迎える人々に声かけをしているらしい。しかし、店内は窓で防音されていて外の状況が全く聞こえなかった。

果たして何の目的であのような格好しているのか?・・・何かのバーゲンセールでお客様を歓迎するためのアルバイトでもしているのか?・・・まさかでも・・・怪しい風俗とかに勧誘されてないことを今は祈るしかない・・・まあ、いち教師とあろうものがそのような行為は決して無いと思うが・・・

 「でも・・・周辺の人達が怪しい目つきで避けて行っていますけど・・・」

乃莉は細かいところまで気付いた。

「そりゃ・・・年いってると思うしね・・・魅力さがなくなってきた証拠だと思うよ」

「ちょっと、宮ちゃん・・・担任の先生に対して失礼でしょう!」

「ともかく・・・行って確認してみようよ!」

不安な気持ちがおさまらなくなったゆのは急遽店内から出た。

「あっ!・・・ゆの!?」

それに続いて残りの一行も注文したメニューをそっちのけてまでも、彼女の後を追っていく。

 

商店街通路で・・・

「吉野屋先生・・・何でこんなところに?」

「あら・・・ゆのさん、宮子さん、ヒロさん、紗英さん・・・皆さんお揃いで・・・」

 「ここは千葉ですよ・・・一体、こんな格好でどうなさったのですか?」

「実は・・・学校のキャンパスをペンキで塗装する最中にお気に入りの服が汚れてしまって・・・おまけに買う予算も足りなくて・・・それで仕方がなくアーケード内にあるアニメショップでアルバイトをしているのよ(涙)」

「はあ〜〜・・・」

担任教師の言い訳に呆れ顔になったメンバーが一斉に息を吐く。

 「吉野屋先生!・・・教師としての自覚を持ちなさい・・・とあれ程に言ったじゃないですか!・・・みんなを心配させてまで、こんな所で何をしているのですか!」

  格好的にも疑わしい姿なので・・・校長先生が突如現れて憤慨する。

 「だって〜〜、今お金ないもん・・・お給料の良いアルバイトで稼いで新しいお洋服欲しいの」

 「わがままを仰っていたら・・・いつまでたっても進歩しませんよ!・・・全く!!」

  教師がいい年超えて・・・しかも、こんなに遠いアニメショップで、コスプレを着てまで働こうとするのか・・・欲しいお洋服は、学校の教職員でも月給が足りないくらいに高価なものなのか?・・・校長先生は、その事を理由に叱りながら、強引に連れ戻して行った。

「校長先生まで・・・吉野屋先生を連れ戻すために・・・わざわざここまで来たのかな?」

「さあ・・・」

親とわがまま娘のように呼吸のあった2人のかけ合いを、唖然としているメンバーが遠くで見送っている。

 

そして・・・最後の目的地として千葉の繁華街へ向かった。高層ビルが建っている程のかなりの都会で、お土産民芸店も所々並んでいた。ゆの達一行はそこでショッピングを楽しむ。ここのショップもまたお洒落なもので、アニメキャラクターのような女の子の入った看板が店の入口に飾れているのが目立つ。

  紗英は、妹にお願いされたお土産をここで買い求める。

「智花の性格だから、甘くて美味しい和菓子がいいかな」

 装飾コーナーでは、宮子とゆのとなずなの3人がキャラクター付のストラップを選んでいる。

「おっ!・・・これいいね」

「蛙さん達・・・目が大きくて可愛いね」

「みんな、女の子かな」

 サン◯オシリーズでおなじみの『けろけろけ◯っぴ』と呼ぶ可愛い蛙達のアニメキャラクターを目にした。

可愛い物マニアの3人の声を聞いて、ヒロと紗英もやって来る。

「あら、皆さん・・・良いストラップ見つけたわね・・・」

「表情が個性豊かな2等身の蛙だよね・・・」

「ねえ、紗英・・・これって『かんがえる』よね・・・」

「きっとそうね・・・考えているような感じだからね・・・」

「好きなのかな・・・」

 興味津々と選んでいる2人の姿にゆのは呆然とする。

「あっ!・・・これはヒロさん蛙だね」

「え?・・・何が?」

突如、宮子が別種のストラップをみんなに見せつける。

「食べるのをじっとこらえているから・・・『がまんがえる(がまがえる)』!(笑)」

 ヒロのことをネタにしてちょっかいを出した途端・・・

 ゴ〜〜〜〜ン!!!(タイガーアッパーカット!!!)

 宮子は店外へ吹っ飛ばされてしまった・・・

「いつも私のことばっかり!!・・・ほんとに失礼ね!!」

ふくれたヒロは、みんなのいる前から離れていった・・・

「ヒロさんって、相当に力があるんじゃないですか・・・」

「しっ〜!・・・乃莉ちゃん・・・それ言っちゃあ、ダメだよ」

ゆのが人差し指で口を閉じながら、一言注意する。機嫌が上がるまで、しばらくは、話をかけないほうが良さそうだ・・・

 「ねえ、乃莉ちゃん・・・わたし、この蛙さんが欲しいな」

 「わあ・・・これって『みちがえる』のぬいぐるみだね・・・なずな、良い物探したじゃない」

 「えへへ・・・わたしみたいな女の子の蛙さんみたい・・・お部屋に飾ろうかなって、思っているの」

「いいんじゃない・・・残ったお小遣いで買ったら?」

「うん・・・」

 しかし・・・

「あっ・・・」

「もしかして、買えないの?」

 乃莉がチラッと様子を覗った・・・値札を確認すると、なずなのお小遣いでは足りないようだった・・・

「なずなちゃん、ごめんね・・・気持ちはわかるけど、わたしもお小遣い、もう無いの・・・宮ちゃんに使い回しされてしまったから・・・」

彼女の悲しそうな表情を見て、おずおずと上手く言い訳をする・・・だが、誰もゆのから借りようとは言ってはいないだろうけど・・・

 「はい・・・なずな・・・これで好きな物買って」

その時、紗英が有りっ丈の現金をすぐに手渡す!

 「え?・・・いいんですか?」

 「後で、ちゃんと返してね」

 「うん・・・紗英さん、ありがとう」

純粋無垢な子供が持つ明るい瞳は何とか取り戻した。なずなの顔が広がった。

 「さあ、お土産も買ったことだし、そろそろバスに戻ろうか」

  紗英はぶっきらぼうな態度で俄然話を変えた。お礼を言われて赤面した様子が覗えている。何かと素直に受け入れないような感じであった。

 

「「”旅行帰宅”」」・・・UMEより

それから夕方になり、観光バスは出発地点に戻った。降車すると、横一列に並ぶ旅行ツアーの職員達が『お帰りなさい』『お疲れ様』と垂れ幕を広げて観光客達に最後のお迎えをする。

「この度は皆さん、どうもありがとうございました・・・またのご利用をお待ちしています・・・」

  観光バスの運転手とガイドさんに別れの挨拶をしながら、それぞれ解散していく。

 「2人とも、色々ありがとうね・・・大学へのお勉強頑張ってね」

「はい・・・ありがとうございました」

バスガイドが最後の握手をして、ヒロと紗英を励ましてあげた。

 

2泊3日の旅行はここで幕を閉じた。

 

 「疲れたね〜・・・ホントに『お疲れ様』だよね〜・・・」

  垂れ幕を見てくたびれる宮子・・・さすがの遊び疲れで億劫な様子だった。

「とても楽しかった・・・チャンスがあったら、また行きたいね」

「ええ・・・・案内してくれたバスガイドさんもホスピタリティ精神のあるような感じだったわね・・・私も将来、人々の喜ばせるようなことが出来たらいいわね」

  紗英とヒロはつやつやとした感じの屈託のない笑顔だった。卒業旅行としては満足のようだった。

「なずなちゃんは今回の旅行で最も良い思い出が残るんじゃない」

「欲しい物も買えたしね」

ゆのと乃莉がなずなの頭を軽くなでる。

「日頃の行いが良いからね」

ヒロも彼女を見つめて微笑む。

「人徳っていうものですかね・・・」

表情を戻して、宮子もほくそ笑む。

 「うん・・・皆さん、楽しかったです・・・今日はどうもありがとうございましたww・・・」

「あたしも、わざわざ参加させてもらって、どうもありがとうございました」

  先輩達に心からお礼をするなずなと乃莉は笑顔が満ちあふれていた。

 

関東周辺内の短い旅行だったけど、遊んだり、飲んだり、学んだりと波瀾万丈な毎日を楽しんだ。その行事は今後、6人メンバーにとって、きっと良い思い出となっていくのだろう。

特に、みんなからの支えと励ましで包まれた1年普通科の女の子は、最高に良い思い出となっているに違いない。面倒見のよい同期の親友・・・無邪気で心優しい先輩・・・ユーモアあふれる面白い先輩・・・料理を教えてもらった家庭的な先輩・・・絵の描き方を教えてもらった頼れる先輩・・・それぞれ個性のある仲間達と旅行をして1つの幸せを頂き、そして、みんなと同じ1つの目標を芽生え始めた。

 

一方・・・ここは、私立やまぶき高等学校・・・丁度部活の練習が終えた時間になり、スポーツウェア姿の学生達が校門から出ていく姿が見られる。

「ここが私の受験する志望校ね・・・」

そこで・・・1人の受験生がこの学校を偶然訪れた。

「合格出来たらいいわね・・・美術科って何か楽しそう・・・えへ」

夕方・・・閑散とした正門を眺めて微笑む女子・・・名前は茉里である。薄紫色のストレートロングヘアーに花のリボンを飾っている。色白で可愛らしい少女のようだが、ブレザーを着用しているその風格は、ゆのよりは一段と大人っぽく見えている。

 「そろそろ戻らなくは・・・いとこの姉さんが待っていることだしね・・・」

 憧れの名門校を後にして、すぐに帰っていった。

 

 ひだまり荘201号室・・・

じゃぼ〜〜〜ん!!

お風呂に入っているゆのがゼリー状の赤い固形入浴剤を沈ませていた。浴槽から漂ってくる甘い香りがとても心地よい。

「ふあ〜・・・短い旅行だったけど、とても楽しかった!・・・ヒロさんと紗英さんが一生懸命稼いだ費用だから、ちゃんとお礼しなくっちゃね(えへ)」

「なずなちゃんも美術に興味を持ち始めたことだし・・・将来、一緒に美大に行けたらいいね」

浴槽にアヒルのおもちゃを浮かばして呟く。ここでもあどけない笑顔が覗えた。

「学校の課題・・・結局、みんな同じ題材を選んだね・・・絵のタイトルは『給水塔』!・・・なんちゃって」

思わず1人で声を上げる・・・先輩2人のための旅行だったけど、6人のはちゃめちゃな卒業旅行だとゆのは思った。

 

 

                                                                    おわり

 

 

・・・・・あとがき・・・・・

 

ヒロと紗英が大学へ進学することがほぼ決定?・・・しているため、その記念として卒業旅行をタイトルに描きました。ゆの達が課題として描いた背景画は、自分の住んでいる団地のものをモチーフにしました。昭和当時の給水塔を絵で再現してみました。

ひだまりスケッチ6人メンバーの初めての旅行を執筆して、この物語が今後アニメ化になったらなと思います。

 

 

背景画の給水塔(左)と中学生時代の茉里(右)そしてアクリル画材(下)

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