LuckyTime slip

 

前編

 

筆者 かがみん萌え

 


 

 陵桜学園修学旅行から帰って、疲れの取れない生徒達のために、学園から3日間の特別休日をもらった。

「う〜ん!今日もいい調子だな〜・・・」

 こなたは部屋で相変わらずネトゲにはまっていた。

「もしもし・・・」

 その時、別の部屋ではそうじろうが電話を取って応対した・・・ゆい姉さんからだった。こなたの従姉妹であり、居候しているゆたかの姉でもある。親戚に届ける大事な荷物があるので、早めに届けて欲しいとの依頼だった。

『すみません・・・急な出張で、どうしても抜けられないものですから、代理で届けて頂ければ助かります・・・そのために航空費と宿泊費は仕送りしましたので、どうかお願いします・・・荷物と費用はゆたかに預けています・・・用件や場所も彼女に全て説明しておきましたので・・・』

メガネ娘のお茶目な婦人警官が、わざわざ仕送りまでしてくれている。勤務中ではともかくこういう面では以外と気を利かすものだ。

「わっかりました・・・迅速丁寧に届けてきますから、安心して仕事していいよ・・・」

 そうじろうはとがめることなく了解した。

『本当に助かります・・・』

と言った後に電話が切れた・・・そして唐突にドアを開けて、ネトゲで楽しんでいるこなたを呼び出した。

「お〜い、こなた・・・今からゆいの親戚へ荷物を届けに行くぞ!!」

「ええ〜、今いいところなのに・・・本人に行かせたら?」

「ゆいは仕事で忙しいんだ、しょうがないだろ?」

「分かった・・・」

父からの突然の頼みを渋々了解して、依頼された荷物を確認しにゆたかの部屋へ向う・・・

「ねえ、ゆーちゃん・・・ゆい姉さんから、送られてきた荷物ってどれかな?」

「うん・・・こんなに沢山・・・・」

腰を下ろして苦笑いするゆたかが答えると、部屋の片隅に埋まる程、荷物が山積みになっていた。それを見て愕然とするこなたとそうじろうは瞬間接着剤を塗りたくられたように固まり、預かった本人もお手上げ状態だった。

「な、何か催しをするのかな・・・」

「さあね、ゆいの親戚は結構大金持ちと聞いたからね・・・」

 体が膠着するような感じでこなたが聞くと力無い声でそうじろうは答えた。

「ねえ、こんな荷物・・・何処に届けるの?」

「うん・・・沖縄だけど・・・那覇の団地に届けるの・・・」

「ええっ!!沖縄!?」

「うん、沖縄・・・」

「よりによって、あんな遠くへ・・・」

 無邪気なゆたかがそう答えると荷物を眺めるこなたの目が虚ろだった。修学旅行の疲れで、せっかくの休みがまた家の用事で更に遠くへ出かけなければばらないことになったため、聞くだけでも疲れが余計にたまってきた。

「3人ではとても無理だ!・・・ここは、何人か応援を呼んででも届けに行こう!」

「そ、そうだよね・・・早速かがみ達にも協力させてもらおう」

そうじろうの名案がこなたの気持ちを楽にする・・・早速みんなに連絡をした。

 

「と言う訳だから・・・みなさん、ご協力お願いします!」

「え〜、こんなもののために、沖縄まで・・・」

 うなだれるつかさも嘆いた。

「どうして、私達まで、手伝わなければならないのよ・・・全く!」

 こなたに強引に呼ばれたかがみが腕を組んでふて腐っていた。

「そんなこと、言わないでさ・・・持つべき物は、友達というじゃないか〜・・・」

「ああ! もう、べた付くな!!」

 こんな時に限って親友扱いかと・・・くねくね接触するこなたにうっとうしくなったかがみが踵を返した。

「今日からご挨拶も兼ねて親戚まで行かなければならなくってさ・・・荷物が多すぎて、こなたとゆたかだけではどうしても運べないから、それでお願いしたくて呼んだんだよ・・・君たちまで迷惑かけて本当に済まないと思っている・・・」

 悪いなと思ったそうじろうが、手伝ってくれるみんなに感謝した。

「いいえ、困った時はお互い様です」

 闊達なみゆきが笑顔で答えた。

「その代わり航空費と宿泊費は相手持ちだから心配ないよ」

「はい、気遣って頂いてありがとうございます・・・」

 そうじろうがわざわざみんなに費用まで渡した。頂いたみゆきは軽くお礼を言った。

「親戚のおばさんって、お金あるんだね・・・」

 まだ見たことのない身内に、ゆたかはそう思った。

 

 こなた達は、早速沖縄へ向かった。

 那覇空港ロビーから出て、そこからバスで目的地へ向かう。

 途中で市内線のバスに乗り換えてからしばらく進むと、【那覇市宇○原】と案内標識が見えた。そうじろう達はそこの中学校前のバス停に降りて、ゆい姉さんから預かった手書きの地図をゆたかがそっと確認する。地図の目的地には『うえばる団地』と書かれている。

「お姉ちゃんの親戚のおばさんが、この団地の管理者だって・・・」

「ゆたかちゃん、その人と会ったことがあるの?」

 まずはかがみが尋ねた。

「ううん、まだないの・・・私、学校に来る前はずっと入院していたから・・・」

「まあ・・・色々と大変だったんですね」

 みゆきはおっとりとした口調で答えた。

「うん・・・でも、お姉ちゃんが言うには、その人の若い頃が今の私に似てるって」

「ふ〜ん・・・」

 フムフムとこなたは鼻で息を出した。そして表情を戻して本人に尋ねる。

「ところで、待ち合わせはどこなの?」

「お姉ちゃんの親戚がA棟の団地にいるから、そこで会えるっていっていたわ・・・」

「団地って、A棟の何番地?」

「う〜ん・・・」

こなたが質問するとゆたかは、両手で頭を抱えながら悩んだ。どうやら番地までは聞かなかったらしい。

「ゆたかちゃんが住所わからないと、会えないよ?」

「そうか・・・ご・・・ごめんなさい!(涙)」

更につかさも言うと、ゆたかがおどおどと気落ちする。

「ここの近くに確か、役場の支所があるはず・・・」

「ええ・・・そこで、尋ねてみましょう」

 みゆきがそうじろうに応えた。

 素性のわからない親戚と出会いにこなた達は役場の支所へ向かう。三叉路から曲がったところの100m先の右側に見えたのでそこへ入ってみた。

そうじろうがゆい姉さんの親戚の管理する番地を尋ねると、受付の女性はあくせくと資料をめくる。どうやら時間がかかりそうだ・・・

「おお!」

 その時、こなたは入り口の掲示板にある張り紙を目にした・・・『2F会議室にて、パソコン時間制限なし!沖縄の纏わるサイト多数あり!どうか、ご自由にお使いください』と大きく明記されている。

「ちょっと、アンタ・・・まさか、パソコンしに来たわけじゃないよね!私達はゆい姉さんの親戚に荷物を届けなければならないから、そのために来ただけなのよ!」

「だいじょう〜ぶ・・・受付時間長そうだから・・・」

 しかし、こなたはすでに目をキラキラさせていた。興奮さめやらぬ彼女は、すぐに2階へ上がった。

「ちょっと、こなた!!」

かがみが呼び止めたが、彼女の行動にはもはや届かなかった。

「こなちゃん、何処いったの?」

「2階でパソコンしに行ったわよ!!」

 呆れたかがみがつかさに言った。

「わ〜い、あたしも行く〜!」

「あ、私も〜・・・」

「こらこら!!」

 つかさやゆたかもつられて2階へ上がるとかがみがしばしつっこむ。

「しょうがないですね、わたし達も行ってみましょうか・・・」

「全く!!」

 みゆきがゆっくりと階段を上がると、かがみも渋々後について行った。

 ここの2階には、社会福祉課の受付事務が中央にあり、その奥に会議室があった。

「沖縄ってどんな情報があるのかな?」

会議室に入ったこなたは早速インターネットを開いた。鼻歌まじりでやたら検索する・・・

「ん?」

「どうしたの? こなちゃん・・・」

すると、パソコンに何か異変が起きた。

「ちょっと何? これ!!」

 こなたの表情が気色ばむ・・・バグか!?・・・フリーズか!?

そして、扉がゆっくりと閉まり、デスクトップから異様な歪みが現れた。

「いやああ・・・」

「怖い、お姉ちゃん・・・」

 怯えるゆたかとつかさがかがみにしがみつく。

「た・・・大変だ〜! かがみ、どうしよう〜!」

「どうしよう〜・・・・て、アンタが操作したからでしょ!! どこを検索したのよ!!」

「管理人を呼んでみては、どうですか・・・」

 パニック状態のこなたとかがみに、慄然するみゆきが話してみた。

「そうか!」

 早速こなたが会議室の扉を開けた・・・しかし、なぜか開かない!

「だれか〜、助けて下さい! 助けて下さい!」

 今度はドンドンと叩いて助けを呼ぶが扉が分厚いので応答ができない。

「こなちゃん、携帯を使ったら?」

 つかさもびくびくしながら言うと、携帯電話ですぐにそうじろうを呼んだ。

「プ〜・・・プ〜・・・」

 これも応答してくれなかった・・・

「もうダメだ〜・・・(泣)」

 為す術なしか・・・こなたが嘆く。そして、煙のような歪みが容赦なく彼女達を包んでいく。

「助けて・・・」

「お姉ちゃん達・・・きゃあ!!」

 ゆたかが必死で引き止めるが、立体映像のような歪みを透き通ってしまい、正面の壁にぶつかった。4人はそのまま異次元空間に包まれて、デスクトップの中へと姿を消していく。

「どうしよう・・・(涙)」

 1人になったゆたかがついに涙ぐんだ。

「何かあったのか!!?」

 2階の窓からこなたの悲鳴に気付くそうじろうが、慌ててやって来た。すでに消息を絶った彼女達に不安が湧き上がる。

「あっ、そうじろうさん・・・い、今ね・・・こなたお姉ちゃんたちが・・・パソコンの中へ入って言ったの・・・」

 涙ぐむ表情で鼻を詰まらせながら、ゆたかが答える。無垢なお子様が妄想するような口調に首を傾げて悩むそうじろうは彼女の答えをあまり理解していなかった。

「もしかして、例のパソコンウイルスってやつかい!?」

「ううん・・・ウイルスじゃないよ・・・だって、ちゃんとセキュリティ入っているもん」

 そしてシビアに言った。確かに、このパソコンにはインターネットセキュリティがかかっており驚異のウイルスを自動的にスキャンできる設定になっているが・・・

 何が原因で歪みが現れたのだろうか・・・

 

 そして・・・4人が気絶からようやく目覚めた。

「ん〜・・・恐ろしかった・・・ここは?」

「あたし達・・・何ともないみたいよ・・・」

「そうですね・・・・」

 かがみ、つかさ、みゆきがあたりを見回すと、さっきと同じ室内で特に何も変化はなかった。パソコンもあるが電源は切れている。

「あ・・・やっと扉が開いた、外に出られるわよ!」

 キギ〜と音の出るこの扉・・・いつものと違って何かがおかしい・・・

「良かった!」

 少し焦りながら早速そうじろう達を探しにいく・・・気のせいなのか・・・会議室から出ると、2階事務所が何故か古い資材置き場となっており、そして階段の踊り場、1階の受付事務や職員達など何か妙に変わった感じがするのだが・・・それでも気にせずに4人は急ぎ足で支所から出てみた。

しかし、そこでかがみが驚愕する。

「ちょっと、周りがおかしいわよ!?」

「どうしたの?お姉ちゃ・・・えっ!ウソ!!・・・な・・・何もない!?」

「どうなっているの!?」

 後から来たこなたやつかさも愕然した。さっきまで並んでいたはずの住宅街がほとんどなくなり、畑と原野にがらりと変わってしまった・・・その現実離れした光景に、ぼんやりと視界は利いた。

「何か雰囲気が違いますね? これって・・・」

 周りの時代の風潮に気付くみゆきが受付事務所にあるカレンダーを確認する。

「1970年11月・・・?」

「え〜、もしかして私達、過去にタイムスリップしたってこと!?」

「らしいですね・・・どうしましょう・・・」

「ちょ、ちょっと!?・・・1970年っていったら、私達のお母さんが子供の頃の時代じゃないの!」

 現実にはありえない突然のタイムスリップ・・・みゆきやこなた、かがみが茫然自失になっていた。

「また携帯電話で助けを呼ぼうよ・・・」

「うん、わかった・・・」

 どうにか元に戻りたいと嘆くつかさが、こなたに再度電話させるようお願いをする。

 だが、通じてくれなかった・・・『おかけになった番号は、現在使われておりません、番号お確かめのうえ、もう一度おかけ直してください・・・』とメッセージが返ってきた。

「やっぱり、つながらないよ〜!」

「そんな・・・もう、帰れないの・・・」

 うつろな目でつかさが気落ちする。

 1970年・・・その当時沖縄はまだ日本に返還されていない時代だった。タイムスリップしてしまった以上、家族や親戚、友人にも会えない・・・もちろん家にも帰れない。そんな彼女の心境は、今人生最大の悲痛を味わっている。

「こなた! 元々アンタのせいよ!! アンタのおかげでこんな事態に陥ってしまったじゃないの! どうしてくれるのよ!!」

「そんなこと、いわれても!・・・あ、そうだ!確かパソコンがあったよね?それで電源を入れたら、元の時代に戻れるかも!」

「あっ、そうよね!ひょっとしたら・・・」

 かがみに責められて、うなだれるこなたがピンと気付くと、つかさの心に希望の光が見えてくる・・・さすが、オタク道に精通している彼女が原因を追求すべく、急きょパソコンを確認しに行った。

「使えない!!?(が〜ん)」

しかし、そのパソコンには、何故か『3日間使えない』と張り紙されていた。

脱力するこなた・・・その奇異千万な張り紙を見つめて呆然とたたずんだ。

「もう帰れないんだ・・・うえ〜ん・・・」

 つかさがついに泣き崩れた。

「つかささん、泣かないで一緒にがんばりましょう・・・3日になれば、きっと戻れますから・・・」

「うん・・・」

 何とか励まそうと、優しく差し伸べるみゆきが慰めると、つかさは切ない気持ちで自分の涙を衣服で拭いた。

「取り敢えず、3日間どこか泊まれる場所を探そうよ・・・」

「ホテルがあったらいいけど・・・」

しょうがなさそうな顔でかがみが息を吐くと、しょんぼりとした感じでつかさが嘆いた。この時代にホテルという高級設備なんて、そう簡単に見つかるはずがないのだが・・・

 

4人は早速支所から出て、少し歩いてみた・・・

「あれ?・・・あれ?」

この時、車は右側通行・・・舗装の悪い道路で走ってくる対向車につかさはきょろきょろと見回す。

そこから少し先へ進むと、ようやく家が並んでいるのが見えた。やはり現在とはかなり違って特に密集した住宅はなく畑とごく少数の瓦屋根の民家があるだけだった。

「うわ〜、田舎町ばっか・・・かがみんの家みたいだ」

「うるさいな!!」

 からかうような口調で言うこなたにかがみはつっこみ返す。

「どうやら、この近辺には民宿がないみたいですから、向こうの団地に泊めてもらえたら助かりますけど・・・」

「確か『うえばる団地』って言っていたわね・・・この時代からすでに建てられていたんだ・・・よほど古かったんだね」

 古い住宅の街並みに白いコンクリートのような大きい建物が数棟建っているのをみゆきとかがみが見渡す。

 そして、集合した建物の中央側に一件の公設市場が道路を挟んで建っているが見えたので、こなた達はそこへ向う。すぐ近くには、コンクリート造りの給水塔が高々と見え始めた。

 こなた達は、ゆっくりと屋外駐車場の裏口から入ってみた。ごく小さな市場だが、中は以外と広い。そこには、食料品コーナーや化粧品コーナー、鮮魚コーナー、おもちゃ屋さん、お食事処に理髪店、その裏側にも衣料部、文房具店と多くの店舗が空間をうまく使っている。団地住まいの人達が毎日買い物に訪れて来るため、けっこうにぎやかなものだった。

「おお、プラモデルだ!! 懐かしいね・・・」

「懐かしいって、アンタまだ生まれてないでしょ!!」

 こなたが目を引くと、すぐ横におもちゃ屋さんが見えた。建物のプラモデルや風景物のプラモデルなど、その当時のおもちゃがたくさん売られてあった。

「それより、ここの受付事務はと・・・」

「あれかしら・・・」

 みゆきが少し目をやると、食料品コーナーを横切った奥に受付事務所が見えた。

「そこの管理人さんに、お願いして何とか泊めさせてもらいましょうよ!」

 かがみが先頭をきって、そこへ向かった。

 しかし、白熱電球で照らされているその場所は留守中のようだった。マジックペンで書かれてあるような木の立て札が受付カウンターの中央に置かれてあった。

「え〜、どうしよう・・・」

「待つしかありませんね・・・」

 ため息混じりでかがみは戸惑うと、落ち着いた物腰でみゆきが答えた。

 その時、後方の2人が腹の虫を鳴かせていた。

「それにしても、お腹空いたね・・・」

「せっかく食料品コーナーに来たんだし・・・」

「そうね、その間に何か買いましょう・・・」

 この時だけが楽しみだと思うこなたとつかさのお願いにかがみが応えた。

 4人は取り敢えず、食料品コーナーで買い物をすることにした。缶詰類やインスタントラーメン、パンやお菓子、冷凍食品、酒類、そして日用雑貨と多くの商品が陳列や木棚などに所狭し並べられている。ごく小さなスーパーマーケットのようなものだった。

「ああああああ〜〜〜〜〜!」

「アンタ、何やっているのよ!!」

「うん、上で回っている扇風機に声を出したら、発音が変わるかな〜と思って・・・」

「バカ!」

 天井に吊り下げられているシーリングファンに、遊び半分のこなたが上向けになって声を当てた。それを見てかがみが半ば呆れる。

「あら、値段がないようですね・・・いくらかしら?」

 みゆきが缶詰を1個取り出してつぶやく。

「さあね、何かあるのかしらね?」

よくよく見ると全ての商品には、どれも値札が貼られていない。それを見てかがみも少し疑問に思った。

「だいじょう〜ぶ、ゆい姉さんから小遣いたくさんもらったからね・・・好きなだけ買えるよ!」

「アンタ達、少しは経済しなさいよ!」

「はいはい・・・」

 かがみの注意も上の空で、お気楽トンボのこなたとつかさはパンコーナへ向かう。

「キャッホ〜、いいものめ〜っけ!!」

 サイドワゴンにチョココロネが並べられているのを目にした。焼きたての風味が漂って、とても美味しそうだ・・・こなたは嬉しさあまりに声を上げた。

「こなちゃん、こっちには駄菓子があるよ!」

「ほんとだ、懐かしい!!チョイスだ、チョイス!」

「お金はたくさんあるんだし・・・好きな物を選ぼうよ!」

「そうだね、そうだね!」

 うきうきとこなたとつかさは買い物かごにたくさんの駄菓子とパンを詰めた。冷蔵庫から瓶入りの飲み物も取った。

「何だか楽しそうですね・・・」

「さっきまで、悲しく泣いていたのにね・・・」

 お菓子目当ての2人に対し、かがみとみゆきは宿泊するための食品や日用品を静かに選んでいた。

 

 そして、買い出しを終えた4人は商品をレジのカウンターに並べた。

「お願いします!」

・・・と、にっこりとつかさがレジのおばさんに挨拶をする。カウンターには駄菓子やチョココロネが他の品物を覆うくらいに山積みになっていた。

おばさんはそれを1つ1つチェックして精算している・・・

「95セン・・・です」

「“95円”・・・安い!!」

 勘違いにも驚く4人が、目をキラキラさせた。

「さすがに、時代が遡ると単価も違ってくるね!」

とフムフム感心するこなたが財布から小銭を出した・・・

 しかし・・・

「お客さん・・・せっかくだけど、これでは買えませんよ!」

「ええ〜!!どうしてなの〜!?」

 苦笑いするレジのおばさんから買えないと言われて、こなたが血相を変える。

「だってえ〜、ほら・・・お金ならたくさんありますよ!」

「何ですか、それ?」

 慌てるつかさも、もじもじと財布に入っている五百円玉や千円札などを見せたが、受け入れてくれない。

「でも、さっき・・・“95円”って言ってなかったんじゃ・・・」

「確かに言いましたけど・・・“95えん”ではなくて“95セン”ですよ!」

「えっ!?・・・95セン???」

 単価の意味がわからないこなたは困惑する。

「あのですね、お客さん・・・お金は、こういったものですが?」

 呆れたおばさんが、レジスタから一枚の硬貨や紙幣を見せると、かがみが愕然する。

「セント、ドル?・・・ちょっと、これって外国の通貨じゃないの!?」

「そんな〜、普通のお金では、買えないの!?」

 懇願するつかさだが、それでもおばさんは無言で首を振った。

「そうみたいですね・・・ここ沖縄は日本の領土ではないですから・・・」

「そうか、まだ復帰以前の時代だからね・・・」

「はっ!?」

 そこで、みゆきが消極的肯定を示すと首を傾げるかがみが思案げにつぶやく。それを聞いているレジのおばさんは、何を言っているのかがよく理解できなかった。復帰以前ではなく、今は復帰もしていない時代だからだ。

「そうだ! 銀行はないの? 為替で両替できるかも・・・」

「あいにく銀行は、この近辺にはないですね、遠くへ行かないと・・・それに、これでは両替できるのはとても難しいですよ・・・琉球政府の支店ではたいがいが預金や振り込み、支払目的でしかないものですから・・・もし両替するに当たっても、その通貨を扱っている国の身分証明書も必要になると思います」

 こなた達の貨幣を目線に、この国の金融状況についてはっきりと助言した。

「そんな・・・チョココロネは買えないの!・・・トホホ」

 ドル紙幣を見て、落ち込むこなた・・・見たことのない現在の代物をレジのおばさんが受け付ける訳もなかった。この市場では、今持っているお金はもう使用できなくなった。

 

「おはようございます(ペコ)」

「あら、おはよう・・・今日は以外と早いね」

「はい、学校の職員会議で今日だけ早く帰れたの・・・」

 その時、市場の入り口から、1人の女子高生がにっこりと挨拶をした。何やらアルバイトとして雇っているらしいが・・・ピンク色のショートヘアをツインテールに結わき紺のリボンで飾っている可愛らしい姿は、何処かで見たことのある顔だ!

「あっ、ゆーちゃん!」

「え・・・」

「ゆたかちゃん・・・もしかして、アンタも時空の歪みに遭ったの!?」

ゆたかだと気付くこなたとかがみが、彼女に尋ねた。

「あの・・・わたし、ゆりですけど・・・」

「ゆり?」

「はい、外間ゆりです・・・」

「え〜!?・・・ゆたかちゃんじゃなくって?」

「ゆたか・・・て?」

こなた達の会話に、瞬きを続ける彼女は困惑した。

「つかささん、どうやら別の方らしいですよ・・・制服も違いますから」

「あっ・・・本当だ!つい、うちの学校の後輩と似ていたものだったから・・・」

 彼女の制服姿にみゆきが気付くと、うっかりとつかさもあわてっぷりな表情で言葉を返した。

「あら、ゆりちゃん・・・もしかしてそのお客様、あんたのお知り合いなの?」

「い、いいえ・・・」

レジのおばさんが問いかけると、彼女は戸惑いながら首を振った。そしてこなた達に目線を向けて話してみた。

「ところで、あんた達は見かけないけど何処から来たの?」

「はい、困ったことにあたし達、タイムスリ・・・」

「わっ、それを言っちゃダメ!!」

 慌てるかがみがつかさの口を素早く押さえた。

「実はですね・・・本土から来たものだから、少し道に迷ったんです・・・それで、今お金もなくて・・・泊まれる場所もなくて・・・」

 うまい具合に誤魔化そうと、はっきりしない口調で2人に訳を話した。

「まあ・・・そうなんですか・・・それで困っていらっしゃるのですね」

「まあ〜、そういうことですか・・・はい」

「でしたら私が管理人に何とかお願いしてみますね・・・大丈夫ですよ、ここの管理人さんは、すごくいい人なんですよ!」

「えっ、いいんですか?」

「はい、ここの団地ですけど、よろしければ・・・」

「あ・・・ありがとうございます、助かります」

あたふたと動揺するかがみだが、心優しいゆりが引き受けた。

「いいですよね、中村さん・・・」

「ええ、ゆりちゃんが、そう言うのなら・・・」

 中村というレジのおばさんも心強く引き受けた。

「あの・・・私、今お腹空いちゃって、あのチョココロネが食べたいんだけど・・・」

「ちょっと、こなた、よしなさいよ!」

 図々しくもこなたが、チョココロネを羨ましそうに見つめて、手を出す。

「いいですよ、お好きなだけ食べなさい! 困っている人を放っておくわけにはいかないからね」

 困ったような感じの笑顔でおばさんが許可した。

「わ〜い!ありがとうございます・・・う〜ん、美味し〜い!」

「全く・・・」

「よほど、お腹が空いていたんだね・・・」

喜ぶこなたがすぐにチョココロネにがっつき始めた。それを見てかがみは呆れ果て、そばで見ているおばさんが苦笑した。

「申し遅れました、初めましてゆりさん、私は高良みゆきといいます」

「あたしは柊つかさです!」

「私は柊かがみです!」

 3人がゆりとおじぎしあった。

「い・・・泉こなた・・・」

「アンタ、食べながら話さないでよね、行儀が悪い!!」

 チョココロネを口いっぱいにほおばりながら自己紹介するこなたに、みっともなく思うかがみが、たしなめる。そのおもしろさに笑うみんなの声が店内に響いた。

「その代わり、わたし達も少しお手伝いしますね」

「ええ、とても助かります・・・でも今日はあまり、無理しなくてもいいですよ・・・市場内を覗いてみては、どうですか?」

「わかりました・・・」

 おばさんに気遣ったみゆきがこなたと市場を見学しに行く。残ったかがみとつかさは、ゆりと一緒にひとまずお手伝いをする。

「ところで、あなた何処の学校?今何年生?」

 かがみがゆりの通っている学校について質問した。

「はい、ナハ高校1年生です・・・」

「ナハ高校・・・」

「私達の高校は沖縄で一番の進学校なの」

「へえ〜、優秀じゃない!?」

「はい、ありがとうございます・・・」

 驚きを隠せないかがみにゆりが笑みを浮かべる。

「そしたら、お勉強もかなり大変じゃない?・・・テストの回数も多いとか?」

今度はつかさが話してみた。

「うん・・・でも公立高校だから、よその学校とそんなに変わらないわ・・・高校入試も公立なら、どの問題も共通でしたし・・・より優秀な内申と試験が上手く解けたら入学できる学校だから」

「そんな優秀な子が、どうしてバイトなんて始めたの?」

ゆりが答えると、かがみがまた尋ねる。

「私が小さい頃、お父さんが別れてね、今はお母さんと2人で暮らしているの・・・お母さんも頑張って自営業を営んでいるんだけど、収入が思わしくなくて家賃と光熱費で精一杯で・・・だから、学費と小遣いだけは、私のアルバイトで何とかやりくりしているの」

「へえ、偉いわね! 将来の夢とかはあるの?」

「ええ・・・私ね、本土の大学へ進学して、経済学を学ぼうとお勉強も頑張っているの・・・でも、沖縄は日本じゃないから、本土に行くにはパスポートが必要になるでしょう・・・ただでさえ大学資金を稼ぐのが精一杯で、パスポートの資金まで増えると、とても足りなくなるから・・・それまでに沖縄が日本に復帰できたらいいな〜・・・と思って・・・」

切ない気持ちでゆりは自分の目標に夢を追い求めた。しかし、今の彼女のお給料が毎月17ドル・・・その当時の日本円にすると約6千円。大学の学費は国立でも年間10万円以上必要となっていた。それもパスポートの資金を除いての場合だ。今働いているバイトの収入では1年間稼いでも、とても間に合わない。更にそれから高校の学費や食費を引くとなると、ほんのわずかしか残らなくなるという状況だった。

「なるほどね・・・苦労しているわね・・・」

「平気、慣れていますから・・・それにね、この市場の商売が繁盛したらお給料も上げてもらえるって、ここのオーナーが言ってくれたわ」

「へえ〜、そうか・・・でも、大丈夫!・・・あなたの願いはきっと叶うわ! だから諦めずに頑張って!」

「はい、ありがとうございます!」

 意気揚々とかがみがゆりを思いきり励ました。もちろん、彼女はすでに知っているのだから・・・

 

 そして、夕方になる時間・・・給水塔に設置されている拡声器からお帰りの時報が団地全体に鳴り響いていた。『夕焼けこやけ』の歌が流れている・・・

「あれはですね・・・夕方になると、必ず流れるんですよ・・・子供の帰りが遅くならないようね・・・自治会の人が音楽ツールを時報で設定してあるんです」

「へ〜、そうなの・・・」

 その歌にかがみとつかさは、しばし心を奪われていた。そして、“ぱっ”とかがみが何かに気付く。

「あっ、もう遅くなるからそろそろ宿泊先、決めなきゃ・・・」

「すぐそこの団地に一件だけ空き部屋がございますが、もし、よろしければお入りになりますか?」

 そこで、親切な女性管理人がやって来て4人に話しかけてみた。

「はい、お願いします・・・」

 笑みを見せるかがみがすぐに頭を下げた。

「ええ、ゆりちゃんからどうしてもお願いされたものですから・・・新築5年目でまだまだ新しいんですよ」

「本当にありがとうございます・・・ゆりちゃん」

「えへへ・・・」

 みゆきのにこやかなお礼に、ゆりは照れ笑いした。

 すると管理人が気遣いよく団地まで案内させる。ここの団地はA棟からC棟まで全45棟あり、ほとんどが4階建てで1棟につき8世帯から32世帯まで住める公営住宅が公設市場を中心に建っていた。

「何か、結構使っている感じがしますね?」

「そんなことないと思いますけど・・・」

 つかさが団地の周辺を見つめると、確かに・・・新築5年目にしては、落書きや赤さびなどが少し目立っていた。

そして管理人がすぐ近くのA−8棟の402号の空き室までこなた達を案内させた。

「本来なら入居手続きの上、毎月分の家賃10ドルを支払わなければなりませんが、お嬢さん達には、特別サービスしておきますから・・・」

「どうも、すみません・・・」

「ここは、以前に引っ越ししたばかりで、大まかな内装補修でしか行っていませんけど、取り敢えず普通に住むには問題ないと思います・・・」

「いいえ・・・部屋を用意して頂けるだけでもありがたいです・・・」

「またすぐに、出ると思いますから・・・」

「そうですか・・・では、ごゆっくりとしてくださいね・・・」

「はい・・・ありがとうございます」

 みゆきとかがみがお礼を言うと、管理人は笑顔で戻って行った。

「それにしても、古式な住まいだねぇ〜」

こなたは、不満そうにきょろきょろと見回した。

間取りは2DK・・・台所に四畳半間の2部屋のみだった。仕切りは襖〈ふすま〉で取り外すとワンルームタイプにもなる。トイレは浴室と一体化構造でそこからドアで出入り可能な細長いベランダがあり、窓は薄ガラスに木造雨戸、しかし照明だけは無難にも蛍光灯だった。

「まあ・・・昭和の住宅って、こんなものでしょう」

「ねえ、あたし達って、本当に元の時代に戻れるの・・・」

「しらないわよ! とにかく、今はやっていくしかないんじゃないの!」

「そんな〜・・・」

 ふと心配に嘆いているのもお構いなく、それを平気で無視するかがみに、つかさはひどい姉だと思っていた。

「それにしても、お風呂に入りたいわ・・・この団地は湯沸かし器あるの?」

「シャワーは付いているけど、これって水しか出せないみたいよ?」

「どうやら、湯沸かし器はないみたいね・・・」

「仕方ないですよ・・・この当時はまだ、湯沸かし器なんて一般住宅に普及されていない時代でしたから・・・」

 つかさとこなたが浴室やベランダを確認している時、頬に手を当てるみゆきが真剣モードで答えた。

「あっ、本当だ・・・向こうの団地に一件、新しく湯沸かし器を設置しているのが見えるわ・・・」

 かがみが部屋の窓から指さすと、向かい側の団地2Fのベランダに、何やら外国製の大型湯沸かし器の取付工事をしていた。

「イカ形の湯沸かし器みたいだね・・・まっ、時代が時代だからね〜」

「何呑気なこと言っているのよ!アンタは・・・」

後ろからのほほんと答えるこなたにかがみがクルリと振り向いてつっこむ。

「あ、そうだ!こっちもお湯を出せばいいんだよ!」

「お湯って、どうやって出すのよ?」

 こなたの突然の名案に想像できないかがみが頭に疑問符を浮かべる。

「取り出しましたる電気コンロ!」

「アンタ、それ何処から持ってきたのよ!!」

「ん・・・公設市場から借りてきた」

「ちょっと・・・そんなの借りてきて大丈夫なの?」

「ちゃん〜と、断ったから・・・」

ニンマリと微笑む彼女の案とは、浴室の一本の蛇口をホースでつないで、それを寸胴に貯めた水に浸けてお湯を沸かす仕組みだった・・・

「蛇口からつなげたこのホースを上部のシャワーにつなげ合わせれば水と一緒にお湯も出る!(=ω=)」

「わあ〜、なんて画期的な方法なんでしょう・・・こなちゃん!」

「フフン・・・まあね!」

 こなたと一緒につかさも大ボケする。

「アホっ! そんな電熱式のコンロで簡単に沸かせるはずないでしょ!! それに、このシャワーは何処に給水口あるのよ!!」

そして怒ったかがみが、大声でつっこみ出す。

「ない!」

 それとお構いなしに、こなたは、はっきりと答えた・・・

「無いのに、どうやってシャワーからお湯が出せるのよ!!」

「う〜ん・・・それが出来ればね、苦労はしないんだけどね・・・」

「出来ないんなら、やるな!!!」

 おとぼけと言っているこなたにかがみは青筋を立てた。

 

 その時、ノックがした・・・

“はいはい”と返事したかがみが鉄製の玄関を開けて確認する。

「あら、ゆりちゃん?・・・どうしたの?」

「あの・・・みなさん、お風呂まだですよね・・・」

「うん、お湯がないから、どうしようかと困っていたところなの」

「それでしたら、近くに銭湯があるので、一緒に行きませんか?」

着替えと銭湯用具を持参してきたゆりが、みんなを誘った。

「あら、いいわね・・・丁度よかった!」

「でもあたし達、洗面用具持ってないよ・・・」

「あ・・・それなら大丈夫、向こうで借りられるよ」

「それじゃあ、みんな着替え持って行こう!」

 こなたが元気よく声を飛ばして、出かける準備をする。

「調子いいんだから・・・」

 呆れるかがみは言った。

 そして4人はゆりと一緒に近くの銭湯へ向う。A棟の団地を横切って階段を下るとすぐに見えた。小さな煙突が建っているそれは、入り口に『でいご湯』と壁面に大きく書かれていた。

 入り口には男女別の風呂場と受付が通路を挟んで別に設けているので、番台はなかった。受付には洗面器やタオルが自由に借りられ、石けんやシャンプーも販売していた。

「5セント払えば、何時間でも入浴できるんだ・・・石けんとシャンプーは私が貸してあげるね」

「ええ、ありがとう・・・」

 ゆりは気遣って、みんなの分の入浴料金を支払った。そして、“いってきま〜す”と受付の人に軽く挨拶して風呂場へ向かった。

「それにしても、新しいわね!」

「うん、新装したばかりだからとても綺麗だよ・・・団地住まいの人がお風呂でお湯が沸かせないから、たいていが入浴しに来ているの」

「それでお客さんが多いんだね・・・」

人混みのあるロッカー室でゆりとかがみがおしゃべりをした。ベンチに座って脱衣しているつかさもちらちらと見回した。

そして全員がバスタオルを巻いて浴室へ向かった。

「まあ〜、何かとコンパクトなお風呂場ですね〜」

 湯気の立ち並ぶ浴室でみゆきがうきうき気分になった。大浴槽には水とお湯が常に循環しているため湯気が充満していた。それを排気するために高所では有圧換気扇が騒音を出して勢いよく回っている。

「キャッホ〜!!」

 早速こなたが一番乗りで浴槽に浸かった。

「うは〜、ホントに疲れもストレスも癒されるわ・・・」

 その後にかがみも浴槽に浸かって楽な姿勢で一息吐いた。彼女に続いて他の3人も気持ちよく浸かった。

「じゃあ、私・・・少し体流すわね・・・」

「ええ・・・」

 あっけらかんとかがみが頷くと、みゆきは浴槽から先に上がってゆっくりと洗面場へ向かう・・・そして、本人が気付かないお色気な仕草でおもむろと体を洗う。

「おお!・・・」

と思わず3人が声を出した。そのスレンダーな体と巨乳で、浴槽に浸かっているこなた達の目を刺激させ、細い腕で自分の胸を触りながら一緒に注視しているゆりが羨ましく感じた。

「みゆきさんて、お肌がすらっとしていて綺麗ですね・・・私なんて、胸ぺたぺたなんです・・・」

「あら・・・その内大きくなるわよ・・・」

「え・・・ええ」

「大丈夫よ、こなちゃんよりは胸あるから・・・」

「ちょっと、つかさ〜・・・そんな言い方ってないじゃない!」

 冗談っぽく笑うつかさに、こなたは少しムスッと来た。

 

 そして、お風呂上がりのこなた達は、静かに団地へ戻る。空は夜になり、木柱に照らされている白熱灯が美しく懐かしい。

「いい気分だったね、また明日も行こうよ・・・」

「はい、その時はいつでも付き合いますから・・・」

 つかさが喜ぶと、ゆりは微笑んだ。

「ん、どうしたの?お姉ちゃん・・・」

 その時、浮かない顔でかがみが何か切ない気持ちになっていた。彼女の瞳の奥に憂色が見えたつかさが気がかりになった。

「何かさ・・・昔ってさ・・・不便なのはしょうがないけど、憂鬱な気持ちになってしまうものなのよね・・・」

「え・・・どうして?」

「例えば、今ある建物とか住宅とか街灯などが、時代の進化と共に取り壊されてしまい、そして新しいものへと建て替えられてしまう・・・存在しているものが次第に存在しなくなってしまう・・・こんな美しい町並みも、もう消えてしまうんだよね・・・」

 その当時の風景に懐いたかがみが、名残惜しさに哀しそうな瞳で遠くを見つめる。またその訳は、ゆりには打ち明けられない・・・

「それが社会現象ですから・・・時代の最先端というのもがありますから、仕方がないことですよ・・・」

「そうね・・・」

 少しこわばった表情で訊くみゆきは、彼女の気持ちを理解していた。沈んだ声でそっと慰めるとかがみはため息を吐く。

「こうゆう時はさ、何か美味しい物を食べて気分を晴らそうよ!!」

 その静寂な世界を壊すかのように、腹を空かすこなたが声を上げた。

「もう、アンタね!」

「そうよ、お姉ちゃん・・・夕飯作るから!」

 嘆息するかがみに健気なつかさも明るく振る舞った。

「そうそう・・・みんなで楽しくすれば、いやなことも忘れられるよ〜!」

「わ・・・わかったわよ!!」

 こなたが調子よく、かがみの肩をポンポンと叩く。その行動を見て、一緒に歩いているゆりがにっこり微笑んだ。

 そして、団地に戻る途中でゆりが公設市場から今晩のおかずなどを買い出しして来た。

「晩ご飯、これだけで大丈夫ですよね・・・持っているお小遣いで買ってきましたから・・・」

「ええ・・・わざわざありがとう・・・」

「じゃあ、お母さんが心配するから私、先に帰るね・・・近くの団地に住んでいるから何かあったら、いつでも声かけてね!」

「今日はありがとう・・・また、明日ね・・・」

 買い物袋をこなた達に手渡して、ゆりは自分の家に戻った。細身の小さい体で無邪気に走って行く彼女の姿をかがみとつかさは思いきり手を振った。

「それにしても、ゆりちゃんって可愛いね」

「ええ・・・何かピュアな感じっていうのか、そういうところがゆたかちゃんと似ているよね」

「まあ・・・彼女もいわゆる1つの『歩く萌え要素』だよ!」

「はい、もう分かったから!帰るよ・・・」

 ホクホク顔のこなたのセリフに何度も聞き飽きたかがみが言い流した。

 団地に戻って、4人は夕食の準備をする。ゆりから頂いた買い物袋をつかさが確認してみた。

「えびコロッケ、オリ○ンタルカレー?・・・」

 総菜のコロッケとインスタントカレーなどが人数分入っていた。

「ご飯は温かいけど、これって、作られているのを持ってきたみたいよ・・・・売られてあるのを買えばいいのにね」

「そんなこと、言わないでよ・・・彼女はただでさえお金がないんだから!」

「そうか、ごめん・・・」

 贅沢に言うつかさにかがみは、貧困生活しているゆりのことに気遣った。

「おお! さっきのチョココロネも入っている!! ラッキー・・・」

「アンタも少しは感謝しなさいよ!ゆりちゃんがせっかく気遣ってお小遣いを果たしてくれたんだからね・・・」

「分かっている〜・・・」

 こなたがニンマリと返事しながらチョココロネを大きくかじった。大好物に目のない彼女はかがみの説教もどうやら半分しか聞いていない様子だ。

「じゃあつかさ、早速作ってくれる?こなたが借りた電気コンロあるから・・・」

「は〜い・・・」

 かがみにお願いされて、つかさは素直に返事した。

「ねえ、その間にみんなでトランプでもしない?」

「あら、いいですね・・・」

 チョココロネを銜えながらこなたが言うと微笑むみゆきも賛同した。

「あっ! あたしもやりた〜い!」

 インスタントカレーのレトルトを加熱しているつかさもやりたがっていた。慌てて部屋に向かう所・・・

「きゃあ!!」

ガタ〜ンッ!!

「痛〜い!(涙)・・・」

 電気コンロのコードに足が引っかかってしまい、部屋全体に響く程の大きな音を出して転んだ。そして、鍋がこぼれてお湯浸しになった。

「本当にドジッ子だな〜!」

「全く、仕事増やさないでよね!」

「ふえ〜ん・・・ごめんなさい・・・(涙)」

彼女の落ち着きない行動に、かがみとこなたが唖然として、それを見ているみゆきがのほほんと苦笑いした。

 

 

後編へ続く

 


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