LuckyTime slip

 

後編

 

筆者 かがみん萌え

 


 

 翌朝、かがみ達はゆりに呼ばれて公設市場に来た。今日は公休日のため学校もお休みなので、ゆりは朝からの出勤である。この時の彼女はいつもののセーラ服ではなく、可愛く決めた軽装姿でエプロンを着用していた。

「ええ! 今から仕事するの!!?」

めんどうくさそうな顔でこなたが嘆いた。

「当たり前でしょ! 今は一銭もないんだから・・・とにかく、元の時代に戻るまで何とか生活凌がなければならないのよ!」

「え!?元の時代?」

「い・・・いえいえ、何でもありません!!お気に召さないでください・・・」

 周りのみんなが疑い目で見ると、はずみに言ってしまったかがみが慌てた表情で首を振った。その時、店内のオーナーと管理人がこなた達を見つめながら、こそこそと何か話をしていた。沖縄方言で話しているので、何を言っているのかが彼女達には全く分からなかった。

「じゃあ、よろしくお願いしますね!」

 すると、オーナーがこなた達にわざわざ頭を下げてくれた。人手が足りないためか、お手伝いして頂けることによほど感謝しているのだろう。

「お任せください!」

「みなさん・・・助かります」

 やる気満々と引き受けるかがみにゆりも頭を下げた。

「あ〜あ・・・何で私まで、こんなことしなければならないのかね〜・・・」

「まあ、いいじゃないですか・・・お給料、その場で頂けますし・・・」

「食事も付くみたいよ、こなちゃん」

ふてくさった態度でこなたがため息吐くと、みゆきとつかさが笑顔で励ます。しかしお給料といっても彼女達にとってはこの時代だけの価値でしかなかったのだった。

オーナーが行った直後、市場の入り口で集まって、管理人を中心に仕事のことで軽くミーティングを行った。こなた達もこの打ち合わせには真剣に聞いていた。しかし、屋外に設置されている冷凍機用のコンプレッサーの騒音で聞きづらかった。

「それじゃあ、各店舗に分かれてください・・・店員の指示に従って手伝ってくださいね!」

「はい・・・」

 聞き取りづらいためか、かがみがはっきりしない口調で返事した。

「あの・・・先程のお話の件ですけど・・・入り口で運転している機械の音でよく聞こえませんでしたが・・・それで、わたくし達はどの店舗に行けばよろしいのか、もう一度教えて頂けないでしょうか?」

 積極的なみゆきが丁寧な言葉で管理人に尋ねてみた。

「はい・・・皆さんでお好きな所を決めて頂いて、手伝ってあげてください・・・では、お願いします・・・」

円満な態度で管理人が親切にお答えした。

「はい、ありがとうございます!」

「ねっ・・・うちの管理人って、いい人でしょ」

「ええ・・・とても、助かります」

 肩をすくめて微笑むゆりに、みゆきも安心した。

「じゃあ、私はおもちゃ屋さん!」

「あっ、あたしも・・・」

 遊び好きのこなたとお人形好きのつかさは、早速おもちゃ屋さんに目を付けた。

「では、わたくしは衣料コーナーで・・・」

 気前よくみゆきは、その店舗を選んだ。

「お姉ちゃんは?」

「私はゆりちゃんと一緒でいいわ・・・」

「じゃあ、食料品コーナーですね!」

「はい・・・」

「あ・・・それとこなた、途中でサボらないでよ! アンタが一番心配だからね!」

「わかっているよ・・・全く!」

 かがみの忠告がやかましいのか・・・こなたはムスッと顔をふくめた。

 

 早速かがみはゆりと一緒に食料品コーナーで仕事をした。始めに商品の置き場所やレジなどおばさんが親切丁寧に教えた。そして後ろからゆりがボードを持って来た。

「あの・・・えっと・・・商品の値段は、この一覧に全て記載してありますから、確認してください・・・」

「ええ、わかったわ!」

 何かとぎこちない態度でゆりがチェックシートと商品の見取り図をかがみに手渡した。彼女のおどおどしているところも、またゆたかと似ているな・・・と思ったかがみはクールに微笑む。そのチェックシートで陳列などに少なくなっている商品の補充や値段の確認、そして“いらっしゃいませ”と声をかけて、お客様との挨拶もこの店内の仕事だった。休日なため、来客する人もより多くなっていたので、少し忙しくなった。

 仕事はそんなきつくはないが、まだ慣れていないためか長時間も働くと、さすがにしんどくなってきた。

「疲れているでしょう・・・少し休んできて・・・」

「はい、ありがとうございます・・・」

おばさんが気遣って少し休憩を取らしてあげると、かがみは軽く礼を言って食料品コーナーを出た。

「そう言えば、こなた達は真面目にやっているかな・・・」

 気になるかがみが他のメンバーのいる店舗へ確認しに行く。

まずは、おもちゃ屋さんかな・・・と、2人の仕事状況をかがみがちらっと覗いて見ると、やはりつかさ1人だけ真面目に店番をしていた。プラモデルや人形に被っている埃を丁寧に拭き取っていた。

「あれ、こなたは・・・」

「う〜ん・・・さっき、何かを持って何処か行ったよ」

「まったく・・・何しているのかしら!」

 サボり常習犯か!・・・と言わんばかりに下唇を噛みながら、かがみはすぐに市場内を探しに行った。

「ホントに、世話が焼ける!」

 ぶつぶつ愚痴をこぼしながら探しまくるかがみ・・・中はそう広くはないのですぐには見つかるはずだが・・・

「あっ・・・いた!」

鮮魚コーナーを横切って裏通りでようやく見つけると、店番そっちのけにこなたが子供5,6人とメンコして遊んでいた。恐らく小学生位で坊ちゃん刈りやカンパチだらけの丸刈り小僧、鼻垂れ小僧と個性のある少年達が集まっていた。

「こらっ! アンタ、仕事抜け出して何しているのよ!!」

「いや〜・・・働きたい気持ちはやまやまだけどね〜・・・どうしても、この子達が相手にしてくれと、うるさいものだから・・・」

「誤魔化すな!!」

 完全に言い訳だと見抜いたかがみが、容赦なくこなたに怒鳴りつけた。

「何でだよ! せっかく楽しんでいるのに、別にいいじゃないかよ!」

「そうだよ、怒んなよ、おばさん!」

「『おばさん』じゃない!!」

 ツインテールでもじみた花柄模様のエプロンを装っているからか・・・子供達に言われてムカッときたかがみは恥ずかしい顔で強く言い返した。

 子供達と何かもめている間に、そこでゆりがやって来た。

「はいはい、あめ玉上げるから、よその広場で遊んでね(はあと)」

「は〜い!!」

 笑顔で優しく煽てると、喜ぶ子供達は声を上げながら言うとおりに走って行った。

「ごめんね、最近の子供、わんぱくな子多いから・・・」

「ホントね、生意気ばっかりだね!・・・」

少し母性愛を秘めたゆりが答えると、からかわれてご機嫌斜めのかがみが腰に両手を当ててブチブチ言った。

「ねえ、見て・・・私こんなにもらっちゃった!」

 こなたが手を出すと、子供達からGETしたメンコカードが沢山あった。

「わあ〜、こなたさん、すご〜い!!」

「フフン・・・遊びに関しては、プロな私よ!」

「いつまでも遊んでないで、さっさと仕事に戻る!!」

 ゆりが感動してこなたが自慢すると、ガミガミ言うかがみが強引に連れ戻した。

「わあ〜ん、かがみん・・・怒んないで〜・・・」

「あは、おもしろい(はあと)」

 引っ張られていくこなたの姿に、クスクスとゆりが微笑んだ。

 

 そして、お昼時間・・・

オーナーからお昼休みをもらって、こなた達は同じ市場内の小さなお食事処へ入った。中は閉鎖的だが、メロディーの流れるその室内は結構にぎやかなものだった。

「あ、何か懐かしい!・・・」

「懐かしい?新曲ですけど・・・」

「あ、そうか!・・・ごめん、新曲だね・・・そうだった、あはは・・・(汗)」 

 うっかりとつかさがゆりの肩をポンポンと叩いた。時代の状況をすっかり忘れていることに彼女がうまく言い流す。

「これは、いし○あゆみの新曲『あなた○○どうする』ですよ・・・」

「何だか、感じのほどよい曲ですね・・・」

 にっこりとみゆきが懐かしき音楽にしみじみと感じていた。

「はい!その他にも、ドリ○ターズの『ズ○ドコ節』やビー○ルズの『Let ○○ be』と今人気の音楽もあるんだよ!」

「まあ〜、ジャンルが豊富に収録されているんですね・・・」

「今人気って?・・・」

 昔の時代に遡っているためか・・・天然のみゆきはともかく、その曲名にこなたは小首を傾げていた。もちろん、アニメのことしか目のない彼女にとって、その当時の音楽なんて知っているわけもなかった。

「それにしても何処から、流れているのかな?」

 高音質な音楽に、不思議に思うつかさが室内をちらりと見回す。

「何処からかしら・・・」

かがみも一瞥して音源をたどっていくと、客席の片隅にジュークボックスが置かれてあるのを目にした。

「へえ〜、ジュークボックスを使っているんだ?」

「あれはですね、レコードプレーヤが内蔵されているんですよ・・・外国製のステレオデッキで、昔は手回し式だったけど、今は自動的に聴けるんだ・・・アルファベットと番号の組み合わせでお好きな曲を選べるんですよ!」

「あら、まあ神秘的なジュークボックスですね・・・」

「はい、私も好きな音楽がいっぱいありまして、そのためにレコードプレーヤが欲しいんです・・・でもうちは貧乏だから・・・」

「レコードプレーヤってそんなに高いものなんだ?」

「ええ・・・私のお給料では、とても買えないわ・・・」

「フムッ・・・」

 その時、腕を組んでいるこなたが、俄然表情を変えた。打ち明けているゆりの切ない気持ちで何か思いついたのだろうか・・・

 

昼食を終えて、こなた達は隣の広場で休憩をとった。

「ねえ、これ食べてみて、冷たくて美味しいよ!」

その時、ゆりが細長いアイスを持ってきた。

「あっ、棒アイスだ、ありがとう!!」

 大喜びするこなたは、アイスを2本先取りした。

「あ、こなちゃん・・・それ1本ずつじゃないの?6本しかないよ」

「別にいいじゃない、人数分だったらどうせ1本余るんだし・・・」

「アンタってホントに食い意地張っているわね!」

 フフン・・・とかがみの前で微笑むこなたがアイスをほおばると、他のみんなが苦笑いした。

そして、広場近くの円筒型の立て物にぽかんとこなたが見上げる。

「ねえ、あの給水塔って、何メートルあるのかな?」

「う〜ん・・・わかんない・・・」

 尋ねられたゆりは、無垢な表情で首を振った。何度も団地に住んでいるとはいえ、給水塔の実高までは住民誰もが知らないだろう。高台の上で遠方からも目立つくらいに立っている1基の塔・・・恐らく10階建てのビルに相当する高さはあるだろう。別棟のポンプから最上階に汲み上げられた貯水を団地住民に送りこむための重要な役割をしている。

「じゃあ、みんなであの給水塔へ行ってみない?」

「あら、それいいわね!」

 つかさのかけ声に、かがみも賛同して、みんなでこの団地のシンボルとなる塔へ歩いていった。

「わあ〜、気持ちいい!」

給水塔入り口のギャラリーから聳える町並みを、かがみは思いきり深呼吸をした。

「本当に、見晴らしが良いですこと!」

 みゆきも深呼吸して気分を和ました。

「やっほ〜!!」

「ちょっと・・・やまびこじゃないんだからね!近所迷惑だよ!」

「別に大丈夫だよ〜」

「大丈夫じゃない!!非常識よ!」

こなたが遠くに向かって大声を出すと、かがみは人差し指を立てながら注意した。

「やっほ〜!!」

「アンタも出すな!!」

 別の方角でつかさも真似して大声を出すと、かがみは青筋立てて突っ込みだした。

 その時、上空からもの凄い騒音が出た。

「わあ、うるさいな・・・あれこそが、近所迷惑じゃないの!?」

 こなたが耳を指で押さえながら喚くと、大型翼の航空機が爆音を鳴らして飛んでいた。

「あ・・・あれはですね・・・恐らくB−52爆撃機ですよ」

「あの旅客機みたいなもの?」

 眉間にしわを伸ばしながらつかさも空を見上げた。

「沖縄の米軍基地によく飛来していて、その為に住民達の騒音被害で問題になっているんです」

「成る程、そのようですね?」

 人一倍聡明のみゆきは、彼女の説明を理解していた。

 B−52に続いて、今度はその当時の主力戦闘機F−4やF−104、その後に何故かF−22(おいおい、こんな時代にステルス機かよ!?)までもが飛んで来た。

「うわ〜! 戦闘機の方がうるさいわ!!」

 かがみは両手で耳を押さえて顔をしかめた。

「とにかく行こうよ・・・」

「あ、うん・・・」

 いたたまりがなくなったこなたが言うと、少し慌てぶりで頷くつかさも小走りに降りて行った。

「ねえ、まだ時間もありますし・・・少し散歩でもしましょうよ・・・」

「あら、いいですね・・・」

 ピュアなゆりの意見にみゆきが賛同した。そして、みんなは団地のC棟辺りを散歩する。その団地のオープンスペースを利用した小さな公園でのんびり眺めながらまた一休みをした。周りにはブロック造りの花壇が仕切っていて、ハイビスカスなどの花が綺麗に咲いていた。閑静で落ち着いているその広場は、ゆりとこなた達に憩いの環境を与えていた。

「団地が建てられる前は、ここは山だったんだ・・・」

「そうなんだ・・・」

「でも団地が建ってから、引っ越ししてきた子供達は遠くの学校へ通わなければならないの・・・」

「通学大変じゃない・・・」

「ううん・・・そのために送迎バスがありますから・・・私がね、ここへ引っ越ししてきたのは小学校の時だったの・・・団地は新築でね・・・その頃からも送迎バスがあったんだよ」

「あら、本当だ・・・バス停が見えるわね」

かがみがひと目見渡すと、公園の入り口とその真向かえの山林側に通学用の小さな停留所が見えた。朝通学のために団地住まいの子供達が恐らく集まるのだろう。そして、その山林付近では、自転車のおじさんが子供達に紙芝居を見せていた。駄菓子を食べながら真剣に聞いている子供達を見て、ベンチで隣り合って座っているゆりとかがみが何かと懐かしく感じていた。

「そろそろ行こうか?」

「ええ、すっきりしたわ・・・」

 微笑むゆりが声をかけると、かがみが頷き、まったりしたみんなも言うとおりに戻って行く。

「ん?」

 その時・・・何台かの広告車がやって来た。アスファルト舗装が不十分なため、凸凹だらけの道路を擦って走って来るので、砂利埃などが辺りを充満させていた。

「「「ご声援有り難う御座います!!初の議院候補○○をよろしくおねがいします!!」」」

「「「若い議院候補にどうか当選を・・・」」」

「「「もし、わたくしが国政に立った暁には、必ず、沖縄を日本のものにしてみせます!!」」」

それぞれの議院候補達が、次々と三輪トラックやワゴン車などの上で演説活動を行っていた。中には『参議院当選!』と自前の車のボディに大きく張ってある自信満々の候補者もいた。

「あれは・・・」

「国政参加があるんですって、沖縄返還のために・・・」

「へえ〜・・・」

 つかさが尋ねると、ゆりが答えた。

「ええ、そもそも去年11月に行われたニクソン会議の共同声明で発表させて依頼、沖縄の復帰対策要望を実行させる目的で、戦後初の国政参加が立案されるらしいですよ・・・その場合は沖縄から衆議院5人、参議院2人の7人の定数で限られているんですって・・・」

「わずかな定数で、候補者達は必死なんだよね・・・」

 みゆきのクールな力説でかがみも真剣に聞いていた。

「まあ〜、私達に関係のないことだね」

「アンタ、たまにはそういうのも勉強しなさいよね・・・社会の大事な出来事なんだからね!」

 いかにも興味を示さないって感じのこなたが知らんぷりすると、腕を組んでいるかがみがたしなめた。

 

 そして、夕方になった・・・

「はあ〜、やっと、終わったね・・・」

「うん、お疲れ!」

 いつもののお帰り時報の歌が流れると、ようやく仕事が終わって、お茶を飲んでいるこなた達は受付コーナー裏でアナログチャンネル式のカラーテレビを見ていた。

「どうぞ、頂いて・・・」

「わあ、美味しそう!」

 こっそりとゆりが、鮮魚コーナーから刺身やにぎり寿司を持ってきた。その当時のにぎり寿司は、普通には味わえない高級な料理だった。寿司ネタにはマグロやえび、さばにいなり、タコにイカと質素なものばかりだったが、それでもみんなが大喜びしていた。

「では、お疲れ様です!」

 ゆりが肩をすくめて声を上げるとみんなで和気あいあいと頂いた。

「あ、そうだ!今日ゆりちゃんも一緒に私達の団地〈ところ〉に来ない?」

「え?」

「今日だけ、みんなで楽しく遊ぼうよ!」

その時、こなたが思いきりゆりを誘った。

「そうそう・・・ゆりちゃんを歓迎したくてさ・・・色々辛いことも少しは解消すると思うよ」

「あ・・・はい! じゃあ私、お母さんにひとこと言ってくるね!」

 つかさも同じように誘うと、ゆりは喜んで自宅へ駆けつけた。

 

早速こなた達は、頑張っているゆりを励まそうと自分の宿泊している団地で楽しく盛り上げた。テレビやラジオもない静けさの部屋でジュースを飲んだり、スナック菓子を食べながら、みんなでトランプやボードゲームを楽しんだりと・・・そしてトイレから密かにコスプレ制服に着替えてきたこなたが、懐に隠し持っている携帯電話の音楽で『ハ○晴レユカイ』の曲を流してハ○ヒダンスを披露した。その曲は・・・彼女たちのいる団地全体にまで響いた。

「とってもおもしろい!今までこんな楽しいこと、一度も無かったわ・・・」

 初めて見るダンスに夢中になって笑うゆりは、嬉しさ余りにすっかり幸せ気分だ。ドンチャン騒ぎで時間を忘れるこなた達の享楽は夜遅くまで続いた。

 

 それから3日が経過し・・・

「私達そろそろ帰らなければならないけど、これでお別れだね・・・さみしくない?」

「ううん、平気だよ・・・学校のお友達もできたし・・・とても楽しかった・・・」

「あんたって本当に強い子だね・・・自分に自身を持って頑張って! 絶対に大丈夫だからね・・・」

「はい・・・」

 かがみがゆりをそっと抱き付いて励ますと、やはり少しさみしくなってきた。

「そうだ!・・・ねえ〜、これちょっと聴いてみてよ・・・」

 こなたがポケットから何かを出した・・・

「なに?これ・・・」

「iPODだよ・・・ポケット式のデジタルウォークマンともいうのかな?パソコンやCDから取り組んだ曲が聴けるし、通信でダウンロードした曲も聴けるんだ!」

それは、こなたの大好きな『ハ○ヒの憂鬱』や『ふたりのも○ぴったん』などアニメの曲がたくさん収録されていた。この時代にまだ存在しない代物をゆりは珍しそうに見つめていた。

そして、静かにイヤホーンを耳に当ててみた・・・

「へえ〜、不思議ね・・・こんな小さなワッペンからも曲が聴けるんだ〜!」

「うん・・・これ、よかったらゆりちゃんにあげるよ!」

「えっ、いいの?」

「うん、今まで世話になったお礼だよ・・・大事にしてね」

「わあ、よかった! これで好きな音楽がいつでも聴けるようになるのね〜・・・本当にありがとうございます!」

 ゆりは大喜びで受け取った。ただでさえ裕福でない彼女のためにこなたがわざわざ準備してきたのだった。そう、お食事処で俄然思いついたのはこのことだったのだ。

「それじゃあ、さようなら・・・」

「今までありがとう! 本当にありがとう!」

 別れの挨拶に涙を流すゆりとおばさんが力強く手を振って見送ると、4人が静かに団地に戻った。

 

そして・・・

「忘れ物、無いわね・・・さあ、帰ろう!」

戸締まりを終えたかがみが、にっこりと声を上げた。

「ええ、皆さん心配していますし・・・あら、こなたさん、何をしていらっしゃるのですか?」

 みゆきが小首をひねると、こなたが畳の端に何かを書いていた。

「よし! これで、私の名前がこの時代に刻まれる!」

「バカ!」

 ニンマリ微笑みながら自分のフルネームをマジックペンで描いている・・・それを見て呆れるかがみがこなたの頭を軽く叩いた。

「3日間だけど、この団地ともお別れになるのね・・・」

 つかさはしくしく泣いていた・・・

 そして4人は荷物を持って、この室内を出た。1階で待っている管理人に鍵を返して別れの挨拶をした後、そのまま支所へ向かっていった。

 にぎやかだった空き室は、再び静まりかえった。女性らしき4人のヘアーシャンプーと石けんの香りを残しているその部屋には、たった1枚カードを置き忘れていた。それは、こなた自ら取った自画写真のメンコカードだった。恐らく本人が知らずに忘れて行ったのだろう・・・次引っ越して来る人が多分・・・拾うのだろう。

 

 支所に入ったこなた達が、会議室のパソコンへ向かう。どうやら張り紙はされていない!・・・こなたがすぐに電源を入れてみた。

時間は少しかかったがようやく起動した・・・しかし、この時代にはもちろんのこと、インターネットは存在しない・・・さて、どうやって元の時代に戻るかだ!

「う〜ん・・・」

 デスクトップに向かったこなただが、妙案が浮かばないまま頭を抱える。

「ほら・・・早くしないと元の時代の戻れなくなるわよ!」

「わかっているよ!」

 気の焦るかがみが、こなたに強引に押しつける。

「頑張って、こなたさん・・・あなたなら出来ます!」

「ありがとう・・・みゆきさん! ようし・・・」

 みゆきが励ましの言葉を飛ばすと、狼狽していたこなたが少しずつやる気を出す。

「ここで、ネットを回線させないと、本当に戻れなくなる・・・何としてでも・・・」

ようやく真剣に取りかかった。パソコン設定は決して得意でない彼女だが、普段からネットゲームでいじった感覚で操作してみた。

まず携帯電話からパソコンに接続して、プロトコルを認識させた。四苦八苦しながらもダイヤルモジュールで巧みに回線させる。

「できた!!」

すると、ようやくネットが開けた。ブラウザの写りは悪いが『YAHOO JAPAN』とデスクトップに映っていた。

「良かったあ〜・・・」

 つかさが安堵の息を吐くと、みんなの表情が広がる。

「さっすが、こなた! アンタ見直したわ!」

「いや〜、礼には及ばないよ〜・・・」

 舌を巻くかがみが誉めるとこなたはお調子よく照れていた。

「じゃあ、さっきのサイトを検索してみて!」

 つかさが言うと、こなたは異次元空間が出現したサイトを検索した。

 すると、再び時空の歪みが室内を覆う。“わあああ”と悲鳴を上げながら、4人が現地点から姿を消した・・・

 そして、こなた達は無事、元の時代へ戻っていった・・・

 

 かがみ達に励まされて、更にやる気を出したゆりは自分の目標に向けてバイトも勉強も両立させていった。

 

それから・・・沖縄が日本に復帰してから翌年に、ゆりは一生懸命頑張ったおかげで見事本土の国立大学に合格!・・・奨学金も支給されて、大学生活を有意義に過ごしていった。真面目な彼女は数々の資格を取得しながら大学も無事卒業して地方公務員に内職された。もらった収入で親孝行もした。周りの職場からも勤務態度が認められ、今は裕福な生活を送っている。あの時、誰かさんが励ましてくれたおかげで願いが本当に叶ったと彼女は感謝していた・・・そう、あのツインテールの少女が・・・その事は、今でも忘れられないだろう。

 

その一節として語っている出来事が、一冊の本となっていた・・・

筆者・・・

外間ゆり・・・

○○文庫・・・と。

「ほう〜、ゆりのやつ、次々といい本を執筆しているな・・・」

 そして自宅に戻って朗読しているそうじろうは親戚のおばさんのことで感動した。

その時、ゆたかが来た。

「そうじろうさん・・・親戚のおばさんの実家って、すんごく豪華だったね・・・私、羨ましいわ!」

「そうだな・・・何せ一生懸命頑張ったからね!」

「私も、あんな豪邸建てられるかな?・・・」

「おう、頑張れば、その内出来るよ」

「ホントに、じゃあ、私頑張って努力してみるね!」

「ああ、期待しているよ!」

 そうじろうに励まされて、ゆたかも少しずつやる気を出してきた。そして、明るい笑顔で部屋に戻った。

「ねえ、お父さん・・・昔って、ユーモアな子多かったのかな?」

「こなたにしては、結構シビアなこと聞くじゃないか、誰かと会ったのかい?」

「別に・・・」

その当時の子供達から頂いたメンコカードを見つめながら、こなたはそうじろうに尋問した。その子達も生きていれば、今はもうお父さん・・・昔の子と共存した誰かに出会えるかもしれない。すぐに会うかもしれなければ、一生出会えないかもしれない。ひょっとしたら知らない間に出会えたかもしれない。それは定かではないが、きっと過去から未来へつながっているからだろう。その限りある時間に人間は一生懸命に努力している。

人は誰かと出会ったきっかけによって意志が芽生えることがある。そして、本人の努力次第で人生が変わっていくものだ。しかし、人生には苦しみや哀しみだって出てくる。親しくなった仲間との別れやかがみが昔の風潮に懐いて哀しんだのも、ゆりのバイト生活もその人生の一環となっているのだろう。勿論、それらは決して避けられないものだ。

その時、夜空には、1つの流れ星が見えた。しみじみ感じるこなたが窓から見上げると、その頃のゆりの笑顔が映像となって見えた。貧乏生活だったけど、それにも負けずに健気に頑張っている強い子、とても優しくて親切な子・・・こなたはそう思った。

 

 

おわり

 

 

 

らっきー☆ちゃんねる

 

あきら「おは☆らっきー!! 久しぶりのらっきー☆ちゃんねる・・・みなさん、首をなが〜くして、お待ちしていたことでしょう! きゃぴきゃぴのかわい子ちゃん、小神あきらで〜す!(はあと)」

みのる「どうも、お久しぶりです・・・アシスタントの白石みのるです!」

あきら「いや〜、らっきー☆ちゃんねる・・・放送を終了してから、だいぶ期間が経ちまして、不満いっぱい、哀しみいっぱい・・・でも、ファンの方々のために、再び登場しました!」

みのる「はいはい・・・そのために今日は、スペシャルキャラをお見せしま〜す! え〜と、沖縄県在中の『外間ゆり』ちゃん・・・この子が、またまた『ゆたか』ちゃんとうり二つで、歩く萌え要素の1人でもあります! ゆい姉さん親戚のおばさんの少女時代を語る彼女は、初めは貧困な生活を送っていたが・・・」

あきら「お〜〜〜い!!! ざけんな、こらァ〜〜〜〜!!! 誰が、昔の人の話をしろと言ったか!!! アタシは、いつ出番が回って来るって言っているんだ!! 何度も何度も同じことを言わせるな!!!」

みのる「す・・・すみません・・・」

あきら「はっ! す・み・ま・せ・ん!・・・何か間違えたら“すみません”!・・・もし間違い起こして、アタシの出番を無くしたら、本当に“すみません”で済むと思っているの!!?」

みのる「いや・・・それは・・・(恐)」

あきら「じゃあ、出血するまで思いきりヒッ叩く!!? それしかないんじゃないの!!」

みのる「そ・・・そんな・・・(恐)」

ピピピピ・・・

あきら「あ・・・そろそろお時間になりました、では、みなさん又お会いするまで、期待して待っててくださいね! ばいにー☆」

 ガタンッ!!!

 

・・・!

・・・!!

みのる「そ・・・そろそろ、ぼくもお時間なので、これで・・・」

あきら「おい!・・・誰が帰っていいと言ったか!!? 話はまだ終わってねぇんだよ!!」

みのる「ひいいい〜、勘弁して下さい!!」

 バチンッ!!

 

 

 

・・・・・あとがき・・・・・

 

 らき☆すたの小説2ヶ月かかりました。ゆい姉さんの親戚の女子高時代を描いたオリジナルキャラは、ゆたかそっくりの美少女です。1970年は、沖縄が日本にまだ復帰されていなくて、お金もドルやセント単位でした。その当時、私はまだまだ生まれてなくて、親や会社の先輩から情報を収集したり、図書館でネタを拾ったりして書きました。小学校もその当時は、近くに全く無かったらしいが、今は2か所も建っています。しかし、物語を書くに従って、懐かしさ余りに自分でも哀しく切ない気持ちになってしまいました。

 ロケ先は、自分の住んでいる団地です。築43年の古い市営住宅で、そろそろ一部の団地が建て替え工事に入りますが、今までお世話になっている団地が解体されて無くなると、何だか名残惜しくなります。

 小説には、はっきり言って自身がなく、文才のない書き方ですが、絶対に感動する物語です。らき☆すたファンの皆さんに、1つの沖縄の歴史をより知って頂きたく書きました。読んで、感想を聞いて頂く人がたくさんいれば、嬉しいです。

 

                                           2008年11月

 

 

ロケ先の団地

 

 


当時の外間ゆりです・・・ゆたかではありません。

 

 

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