のんのんり あどべんちゃー

 

はちゃめちゃ冒険編

 

ぜんぺん

 

筆者 かがみん萌え

 


 

 ここは、東京から随分と離れているまったりとした長閑な田舎町・・・

 父親の仕事の転勤で東京から引っ越してきた小学5年生・・・私、一条蛍。

「この辺でいいわ・・・」

 クールな表情で自家用車(トヨタプリウス)を停車させます。そして、赤いランドセルを背負ってゆっくりと降りていく・・・そのスレンダーでグラマラスな姿は、みんなから小学生には思えない程大人っぽく見えています・・・何だか、恥ずかしい・・・

「帰りはバスでも大丈夫よね・・・」

「途中で日和神社前のバス停が見えたから大丈夫よ」

「今日はパパと会社の打合せ参加で、明日の午後までは帰ってこられないかもしれないから・・・その為に、夕飯だけは準備しておくからね」

「ええ、ママ・・・じゃあ、行って来ます・・・」

「行ってらっしゃい・・・」

 母親に礼儀良く挨拶をした後、ゆっくりと登校して行きます。辺り一面はたんぽぽやひまわりが綺麗に咲いているのが見られます。

 自家用車はそのまま去って行きましたが、対向車がやって来ると通行が困難になる程、窮屈な道のりです。畑に囲まれたカーブの多い畦道〈あぜ道〉は片側半車線程度の狭い道路で、路肩には『牛横断注意』の警戒標識もあります。

「え〜と・・・学校は・・・」

学校生活には随分慣れましたけど、この集落を1人で登校するのは、やはり慣れないようです。想定外の生活環境に途方に暮れることもあります・・・さまよう私は、少し迷っていました。

 そこで小高い声が私にかかってきます。

「にゃんぱ〜す」

「あっ・・・れんげちゃん・・・おはようございます(ぺこ)」

独特な発言で元気に両手を振りながら挨拶をするもう1人の女の子・・・名前は宮内れんげ。

銀色のツインテールを黄色いリボンでいわき、ぼーとしている様子のおとぼけ顔は喜怒哀楽に乏しい感じがします・・・少し感性のずれた小学校1年生です。

「ほたるん・・・ここから一緒に学校へいくん・・・」

「ええ・・・行きましょう」

 ここからは、お互いにランドセルを背負いながら一緒に登校します。迷っている私をエスコートするところは、年下でも頼りになります。

 

 ここは旭丘分校・・・人口の少ない田舎町なので、小中学校併設校であります。木造1階建ての小さな校舎は、老朽化が進んでいるため、所々に雨漏りや廊下の腐食も見受けられます。プールは設けてありますが、体育館は無く、通常の体育の授業は構内にある狭いグラウンドを利用しています。全校児童生徒は5人で、1クラスの教室でみんなが一緒に勉強をしています。学年がそれぞれ違うため、授業はほとんどが自習制であります。

この分校に勤務している宮内一穂先生は唯一の担任教師です。生徒達の学習状況を見回ったり、質問があれば教わってあげたりするのですが・・・誰も教わりに来ないため、授業時間が終わるまでは教卓でのんびりと昼寝をしています。こんな先生でも、学校職員としての勤務態度はかなり良く、子供達を集めてのカウンセリングや生徒指導に関する保護者会議の役員としても従事していました。

「ああ〜〜〜!!・・・この問題どうしてもわかんない・・・・姉ちゃん、どうしたらいい?」

その中の1人、中学1年性の越谷夏海先輩は自分の問題集を見て苦悩していました。クラスの中では最もムードメーカ的な存在であり、明るく元気な先輩です。

 「そんなの先生に聞けばいいじゃん」

 「ねーねーは・・・熟睡中なん」

「まあ・・・いつものことね・・・」

そうそう・・・担任の先生はれんげちゃんの唯一の姉です。

 「寝ている最中悪いから、教わりにいくのは無理の用だね・・・じゃあ、この時限の授業もおしまいだね・・・教科書を閉まってうちも寝ちゃおうかな」

「勝手に終わらすなよ!・・・つ〜か、あんたはいつもこの調子だから、成績が上がらないのよ」

「それよりさ、みんな・・・今日学校が終わったら、冒険へ行ってみようよ」

「こらっ!・・・話を逸らすな!!」

切り換えの早い夏海先輩は、授業中でも遊ぶ方向に話題を進めています。お姉さんは説教をしていますが、無視されました・・・

夏海先輩の姉であり1学年上の小鞠先輩は、女子の中では最年長の中学2年生です。その割に背丈は低いのですが、茶色のロングヘアとあどけない表情は可愛らしい女の子のような感じなのでとても憧れています。

同じ教室で、みんなが話題で盛り上がっているところとは対象に、1人の男子生徒が黙々と勉学に励んでいます・・・越谷卓先輩です。

何だか私達とかけ離れている様子が覗えますが、このクラスでは最上級生の中学3年生です。インテリ眼鏡で無口な感じの彼ですが、夏海先輩と小鞠先輩の兄さんです。

 「冒険!・・・ウチ、行ってみたいん」

 「そうか、れんちゃんも行きたいか?」

 「この村で行ったことのない場所へ遊びにいくのん!」

  無邪気な表情で頷くれんげちゃんは、どうやら強く決意したようです・・・

 「勿論・・・姉ちゃんもいくよね」

「ええ〜!・・・やだよ・・・授業終わった後は疲れるし・・・」

「ひょっとして・・・怖いのか?」

「な・・・何を・・・別に怖くなんかないんだから」

妹に茶化されて、強気で言い張る小鞠先輩も結局は参加することになりました。

「じゃあ・・・決まりだ!・・・蛍はどうする?」

「わ・・・私は・・・え〜と?」

「ほたるんも一緒にいくん・・・」

夏海先輩に聞かれて思案下に迷っている時、れんげちゃんが私の衣服をおもむろに引っ張ります。

 「れんちゃんに誘われたから、もう行くしかないね(笑)」

 「そ、そうですね・・・皆さんと一緒なら・・・(汗)」

冒険って何をするのでしょうか?・・・一度も体験したことのない遊びに付き合わされてしまった私は、緊張の余りにため息が漏れてしまいました。

その時・・・眠りから覚めた一穂先生が、教卓にある木琴を鳴らしました。この時限の授業終了の合図です。

 「え〜と・・・皆さん・・・先生はこれから村役場でPTA会議があるので・・・今日の学校はこれにて終了!」

 「やった〜〜!・・・お帰り時間だ!」

  夏海先輩は声を上げてはしゃぎます。

「終了?・・・って、今日の給食はどうするのですか?」

挙手する小鞠先輩が先生に聞きます・・・

 「だから・・・先生はこれからPTA会議がありますので・・・給食は無しってことで・・・」

 「え〜〜〜っ!!・・・そんなの無いですよ・・・」

「お昼は各自、お家で食べてくださいね・・・はいはい皆さん・・・では、さようなら・・・」

  ・・・と、まあ・・・こんな感じで、一穂先生は教室から離れていきました。

 「今から、出かけるのに〜〜!!・・・こんな肝心な時に給食を出さないなんてひどいよ〜!!(泣)」

  無責任と言いたいくらいの担任教師に、夏海先輩はだだをこねています。

 「しょうがない・・・なっつん・・・自給自足で冒険するん!」

 「あの、れんげちゃん?・・・自給自足って、何処で食材を入手するの?」

  私はなだめるように疑問を投げます。

 「今から、あそこで食材を探すのん!」

  れんげちゃんが指差した先は、遙か山の麓でした・・・彼女のビシッとした答え方は・・・冗談紛れで言っているのか?・・・本気で言っているのかが理解できません。

 「ちょっと、待ってよ・・・あんな山奥に行くなんて無理があり過ぎるよ」

  窓から眺めているだけでも、その険しさが十分に伝わってくるのでしょう・・・小鞠先輩が断固拒否します。

 「おお〜・・・・面白いじゃん・・・じゃあ、これから冒険開始だ〜〜!!」

  それとはお構いなしに・・・好奇心旺盛の夏海先輩は、鞄〈かばん〉をひさげて出発します。

「おお〜・・・冒険なのん!」

  夏海先輩に続いて・・・恐いもの知らずのれんげちゃんもハイテンションです。

 「はあ〜・・・」

  私と小鞠先輩は、無意識に顔が引きつっています・・・

  果たして・・・水と食料は、どうしたら?・・・山で狩りにでも?・・・はたまた、各自で自宅に戻って準備でも?・・・私の心境はとんでもないくらい厄介な展開になってしまいそうです。

  

  結局・・・私達は聖地巡礼を過ぎた林の多い山へ向かって冒険の旅にでます。

  れんげちゃんは縦笛を吹きながら、のんのんと歩いています・・・その音色は周辺の森まで響いているようです。

「これぞ、まさしく冒険の香りじゃん」

自然な山奥の空気を味わう夏海先輩はいつでもうきうき気分です。

「それで、何処まで行くのよ〜!・・・住処はどうするの?」

「まあ・・・行ってからのお楽しみ」

「本当に大丈夫なの・・・一度も訪れたこともないでしょ(涙)」

小鞠先輩は逆に怖々とした様子で辺りを見回しています。

じわりじわりと進入していく奥の細道・・・どうやらこの場所は、ほとんどが国有林のものらしいです。

「まあ・・・兄ちゃんもついてきていることだし・・・困った時には何とかなるでしょう」

 この森の辺りを確認すると・・・私達の気付かない場所に卓先輩も歩いていました。ハイキング用のルックサックを担いでいる姿を見ると何だかキツそうな様子でした。

「あっ・・・?」

私は少し手伝ってあげようと彼の所へ向かいます。

「手伝い?・・・行かなくっても平気だよ、蛍・・・昨日は部屋で『ダンスゲーム』の勝負をして”負けたほうが翌日みんな分の荷物を運ぶ”とういう約束をしたからね」

「あんた!・・・そんなくだらん約束までさせたの?・・・まあ、了解する兄ちゃんも兄ちゃんだけどね・・・」

 

 その時、れんげちゃんが縦笛を中止して並木から降ってくる落ち葉をじっと見つめています。

「あ・・・紅葉・・・」

「もう秋だからね・・・」

「きれい・・・」

  林に囲まれた道の先には、紅葉が美しく落ちていました。むかしのノスタルジックな光景にみんなが懐かしく感じます。

 「もうちょっと先に広場があるから・・・あそこで一休みしようよ」

 「ああ〜・・・腹減った〜〜・・・」

 「ウチもお腹ペコペコなん・・・」

  気分を取り戻した小鞠先輩が林道内の狭い空き地を指差しています。山中のため、石居がぽつんと立っているだけの眺め良い原野です・・・とりわけ近くに公衆便所があっただけでも場所的に幸いのようです・・・この中央で夏海先輩とれんげちゃんは腹の虫を鳴かせて横たわっていました。

 「ん?・・・何か聞こえるね」

 「滝の流れている音でしょうね・・・」

  現地点では、山奥にかなり進入しているようですね・・・山越えには滝の流れる音が聞こえているため、霧で視界が奪われて辺り一面が真っ白な状態になっています・・・お気に入りの白に近い薄ピンク色の長袖ブラウスと青のフレアスカートを着用していても底冷えがしています・・・

 「取り敢えず・・・ここでテントを建てようよ・・・昼食もまだだし・・・」

「あの・・・今日は皆さんの分のお弁当は作ってないですけど・・・」

私はさらっと尋ねてみました。しかし、夏海先輩は聞きもしないで卓先輩が持ってきた折りたたみ式のテントに目を向けていました。そして、みんなに指示を出しています。

 「こんなごつごつした砂利だらけでどうやって杭を打ち付けるの?」

 「あそこに置かれているものを利用して、テントを固定するのだよ」

 「ちょっと!・・・あんな遠くにあるものを運びなさいともでもいうの!?」

  小鞠先輩は縁石で山積みされているブロックを見て唖然としています。

 「でないと一休み出来ないよ〜・・・うん!・・・今晩はここで暮らすかな」

 「ちょっと、やめぇ!」

  夏海先輩の冗談紛れの発言に小鞠先輩がツッコミます。

 

 「う〜〜ん・・・重い〜(汗)」

 「ほたるん・・・持てないの?・・・ウチも持てんのん・・・」

 「まあ・・・お子様には少し無理かな・・・うちは何とか運べそうだけどね」

夏海先輩は腰の下までゆっくりと上げていました。このブロックは分厚いため結構重量がありそうです。

 「わたしだって持てないわよ・・・」

「姉ちゃんも非力だからね」

「いいもん・・・か弱いから・・・」

 姉に見えない華奢な女の子も、どうやら上がらないようです・・・

「ほたるん腕細いから、無理なのん」

「ええ・・・ありがとう、れんげちゃん・・・では一緒に運びましょう」

私の腕をおもむろに触っていたのは、れんげちゃんでした・・・幼い少女のような声とあどけない表情は可愛く聳えている感じがしました。その反応で無意識に赤面した私は2人で持ち運ぶことにしました。

「・・・」

 「おお〜・・・兄ちゃん・・・やっぱり力あるな」

「頼りになるね」

この時・・・卓先輩がブロックを静かに担いでいます。夏海先輩と小鞠先輩は、彼の雄々しい姿を見て少し感動しているそうです。

「こういう時に先輩達がいると助かりますね・・・れんげちゃん」

「うん・・・ウチ将来頼れる大人になるん」

「そうね(汗)」

卓先輩は男の子だから、平気で持ち運んでいますが・・・腕力の弱い私達にはとても重く感じます・・・

 

 「おうし・・・テント完成だ!・・・皆さんご苦労さん!」

「あんた!・・・指図するばかりで、何も手伝っていなかったくせに!」

  唯一のトラブルメーカ・夏海先輩はみんなの前で威張っていました・・・姉・小鞠先輩の怒りも有頂天です。

 「あっ・・・兄ちゃんは、あそこに流れている滝で水を汲んできて・・・ついでに何か食材になるものも探してきて」

 「コクリ・・・」

  やはり、狩りで自給自足!?・・・れんげちゃんが学校で言ったことと、私の思っていた予想が当たってしまいそうです。妹の夏海先輩に指示された兄・卓先輩は静かに頷いています・・・そして言うとおりに従い、霧で覆われた林道へ姿を消していきます。

 

そこで、恐ろしい結末が私達に迫ってきます・・・

 「何っ!?」

  その時・・・何処かしら”ガサガサ”と物音が立っていました・・・

 「「「きゃあああ!!!」」」

何と!?・・・森の奥から一匹の熊が出現しました。私と小鞠先輩は思わず悲鳴を上げました・・・どうやら雌の熊らしいです・・・(恐)

「た・・・たすけて・・・」

実際に見た感じの狂暴そうな熊!・・・きっと、腹を空かせてやって来たのでしょう・・・”がぉ〜〜!”と叫び声を上げて、獲物のように狙って来ます!

 「こっちも丁度腹を空かしていたところだ〜〜!」

「おお〜・・・熊料理なのん!!」

  驚愕して逃げ出すと思いきや、逆に食材が手に入るとのことでの見境に夏海先輩とれんげちゃんは勇姿に立ち向かって行きます・・・

 「くたばれ〜〜」

  始めに夏海先輩が跳び蹴りで先制攻撃をします。

 「食材逃がさないん!!」

  その後で、ジャンプしたれんげちゃんがスコップで熊の顔面を思い切り狙います。

  これはまさにサバイバル!?・・・”がぉ〜〜!”と再び声を上げながら苦しんでいる様子が見えています・・・2人はスコップの柄を利用しながら首を締め付けていますが、野獣はなかなか悶絶しませんでした。

  果たして・・・喰うか喰われるかの食物連鎖の頂点は誰が君臨するのか?・・・私の心境は不安と恐怖の胸騒ぎでいっぱいです。

「わ・・・わたしだってえええ〜〜!!」

  びくびく脅える小鞠先輩ですが・・・必死で戦っている2人を見習って、木の棒で向かっていきます・・・

  ところがです・・・

 「きゃあ!」

  途中で体勢を失って、横転しています!

 「い・・・いやああああ!!!」

じわじわと間合いを詰めてくる熊に小鞠先輩が絶叫しています!・・・

その時です!!

 「先輩を襲っちゃ!・・・ダメえ〜〜〜!!!(涙)」

  私は、慄然している小鞠先輩を助けようと、その熊に立ち向かいました。瞬時に間合いを詰めてから、自分の拳で腹部に1発入れました!・・・熊は大きな喚き声で血反吐を出しました。

  そして、重量のある熊と力ずくで対抗しました!・・・熊も精一杯力を出しているようでしたけど・・・私はそれ以上に力を出して、思いっきり持ち上げました!

 「ええええい!!!」

  かけ声を上げながら頭上から投げ飛ばしました!・・・熊は5m先にある岩石に頭部をぶつけて失神しています。

 「「「いまだ!!」」」

  熊が目覚めないスキに、夏海先輩とれんげちゃんが足蹴りやスコップなどで滅多打ちにします・・・

「ほ・・・蛍・・・もしかして・・・怪力!?」

  ふと気付いたみんなが私の勇敢な戦いぶりにどん引きしています・・・

 「あ・・・あの・・・その、いやん・・・私か弱いのに〜・・・」

 「何だかわからないけど・・・ほたるん・・・お手柄なん」

「え・・・ええ(汗)」

  この時・・・れんげちゃんだけが感動していました。親指を立てながら赤面している私に励ましてくれます・・・

  熊を仕留めたすぐ後に、卓先輩が静かに戻ってきました。そして、水と食材をみんなに見せました。

 「おお〜!・・・兄ちゃんもすごい!・・・山菜を沢山取ってきたね」

  ふろしきを広げると・・・栗やマイタケ、大根葉などの7種類の山菜が揃っていました。夏海先輩は”ご苦労様”と言わんばかりのご感心な様子です。

 

  さて、倒れた熊を夏海先輩が、包丁で力強く裁いています・・・汚れと錆の付いた大きな包丁は何処から準備してきたのか、わかりません・・・

  血生々しく裁いた肉は、山菜と一緒に水の入った鍋に添えています。火起こしした薪〈たきぎ〉が消えないように卓先輩が太い円筒で蒸かしています。何度も吹いているため、息切れがしているようです・・・

 「おお〜・・・コクが良くなっているん!」

  れんげちゃんは煮付けている鍋を嗅いで目をキラキラさせています・・・

 「こんなゲテモノ!・・・食べられないわよ!!」

 「そうですね・・・いくらなんでも気味悪いですよね・・・」

  熊のお肉を今から食べるのですか?・・・初めてのサバイバル生活に小鞠先輩と私は愕然しています。

 「贅沢は言わないの・・・まあ、食べて見ればわかるって・・・」

  夏海先輩がスチロール製のどんぶりを私と小鞠先輩に強引に手渡します。たき火のもうもうと上がった煙と同時に暖まった肉汁の湯気がもうもうと上昇しています。何だか臭いがキツそうな感じなので、私は少しだけ息を止めました。

  小鞠先輩はその肉汁を先に味見してみました。

 「え?・・・以外と美味しいじゃない」

 「お野菜のコクが効いているなん・・・ほたるんも食べてみるん」

  れんげちゃんに進められた私は恐る恐ると味見してみました・・・

 「あら・・・本当・・・良い味ですね」

 「何か・・・焼き肉のような・・・ステーキ肉のような厚みが煮込んだ感じでジューシーな口溶けだよね」

 「ふふん・・・隠し味は教えませんよ〜」

 「夏海ってば・・・見かけによらず野外料理上手じゃない」

 「まあ・・・姉ちゃんには無理だけどね・・・」

 「ちょっと!・・・今の言葉、聞き捨てならないよ!」

  この時、卓先輩がルックサックから人数分のおにぎりも持参してきました。

 「あっ、兄ちゃん・・・水くさいじゃない・・・持って来たなら最初から言ってよ!」

  何も返答しないままで・・・”すみません”という態度を見せています。その後で照れくさそうに頭を掻いていました。

 

ほどなくして・・・

鳥の鳴く声も消えて再び静寂な森に戻っています・・・

太陽は西の方に沈み、山の辺りは見晴らしが悪くなっています・・・

周辺を明るくしようと、テントに石油ランプを灯します。外は寒くなりつつ、たき火は消滅して煙だけ上がっていました。

私は小鞠先輩と一緒にテントの中で居座りします。それぞれ持参してきたハンドタイプのカイロでお互いに体温を浸っています。

そこで、卓先輩がこっそりと入ってきて、私達に毛布を渡します。

 「あ・・・ありがとうございます」

 「兄ちゃん、1人で寝るの?」

首を振った後、一端テントを出てから無口で指差します。

「綺麗・・・」

「銀河のように星が並んでいますね」

 夜一面の銀世界・・・複数の光で象られている星座はとても心地が良いです。

山中の景色ではベールに包まれたような暗闇に、時折虫の鳴き声が満ちあふれてきます。

大抵は無表情な卓先輩もこの時だけはさわやかな笑顔で黄昏れています。

 「ところで、蛍はお家へ帰らなくて大丈夫なの?・・・両親心配するのでは?」

 「お父さんとお母さんは仕事の付き合いで今日1日は帰って来ないの・・・」

 「宿泊会とか何か?」

 「ええ・・・転勤してから初めての業務打合せでね・・・慰労会を含めての役員会議が2日間あるらしいんです・・・」

「そうなんだ・・・」

  親と離れての私生活・・・慣れない私は、ついため息を漏らしました。

 「大切な大人の付き合いだからね・・・仕事あっての生活だし・・・そこのところは、蛍も理解しておいたほうがいいよ」

 「はい・・・ありがとうございます」

それを小鞠先輩が上手く打ち解けてくれました。私はこの時の彼女がとても誠実に見えました。

 

 「「「ばあ〜〜!!!」」」

 「「「きゃああ〜!!!」」」

 「驚いた〜・・・ハハハ・・・」

 「ハハハ・・・じゃないよ!・・・寿命が縮まったじゃない・・・バカ!」

 「もう〜・・・非道いですよ〜・・・」

「・・・!?(兄)」

  その静寂さを破るかのように夏海先輩が熊の着ぐるみを着ながら大声を上げました。余りにも驚嘆し過ぎて、小鞠先輩と私の心拍数が急上昇してしまいました。

 「2人仲良く、な〜にを語っていたの?」

 「別に大したお話じゃないよ・・・ただ・・・空を眺めていただけだから・・・」

 「おお・・・兄ちゃんも一緒だったんだ」

「コクリ・・・」

冷や汗を出している卓先輩も無口で頷いています。

この時、隣にいるれんげちゃんがランドセルから何かを出しました。

 「みんなで花火やるん・・・」

 「今朝から花火を学校に持ち出していたの?」

 「毎日持ち出しているん」

 「はあ・・・」

  余りにも呆れ果てた小鞠先輩は息を吐きました。

  

  狭い空き地に集まって、みんなで花火大会をしました。線香のような散った火花が明るくて、とても美しいです。この時だけは皆さんが楽しく微笑んでいます。

  そして、花火を終えたれんげちゃんが、別の花火を準備しました。

 「これは・・・噴出花火!?」

 「今から打ち上げるん」

  マッチで導火線に点火した後・・・“ボン!”と爆発音を立てながら夜空を美しい光で散らしました。

 「アルマゲド〜〜ン!」

 「こんな場所でアルマゲドン?」

  見上げる夏海先輩は爽快な気分になっています。小鞠先輩は何かと首を傾げている様子です。

 「次これを飛ばすのん」

 「ロケット花火か・・・」

 「山に向けて飛ばすん!」

 「ちょっとやめてよ!?・・・火事にでもなったらどうするの?」

  調子よくも、れんげちゃんが空瓶に入れた花火をいきなり点火させました・・・火花は勢いよく出ています!・・・それを手に持ちながら標的の山奥に向けているのです!?・・・その無謀な行動を小鞠先輩は必死で引き止めます。 ※危険ですので、読者の皆さんは絶対に真似しないでください

 「発射!!」

  しかし・・・その注意喚起は届きませんでした・・・奪い合い合戦のようになっていたため、標的外れて近くの岩石に跳ね返ってきます!?

 「わっ!・・・わっ!・・・わっ!・・・危ない!!」

まさに危険行為です!・・・跳ね返ってきた花火は先輩達に向かってきました・・・そして、近くで爆破音を鳴らしました!・・・夏海先輩と小鞠先輩は腰を抜かしています。

 「何はしゃいでたんだよ・・火傷するところじゃないの!」

 「だって〜・・・れんげが理由も無く山に向けてロケット花火を飛ばそうとするから・・・」

 「こまちゃん、全然わかってないん・・・夜は暗いから山で寝ているフクロウさんを撃ち取ろうと思っていたところなん!」

「こまちゃんって言うな!!(ツッコミ)」

「あのさ、れんちゃん・・・花火でフクロウは撃ち取れないって・・・それにあんなものを狙ったところで何をする気だったの?」

 「ペットにして育てるん!」

 「はあ〜・・・ダメだこりゃ・・・」

  奇妙な生き物を飼育するまでというれんげちゃんの試行錯誤は完全にずれている様子でした。呆れた夏海先輩は、もはや突っ込む気にもなりませんでした・・・

 

その時、私は懐に収めてある携帯電話の着信音にふと気付きました。母からのメッセージでした。

『明日の放課後までには、校門へ向かえに行きます・・・』

『了解しました』

私はメールを確認してすぐに返信しました・・・

別の着歴も確認したところ、両親からの電話の着歴が2回残っていました。山奥にいたため、きっと電波が届かなかったのでしょう・・・その心配がゆえにメールを送ったのだと思います。

 「蛍・・・そろそろ寝ようよ・・・ふぁ〜」

 「あ・・・はい・・・・お休みなさい」

小鞠先輩が眠そうに言っていました。私はテントの中に入って暖かい毛布で心細くなっている彼女と一緒に寝ます。

 

 

  こうへんへつづく  

 


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