シスプリワンピース

 

第5章 妹達の船室内のくつろぎ

 


 

      それぞれの買い出しと調達は終えたが、ルフィやゾロが遊びすぎたために出航定刻が遅れてしまったことに苛立っていたナミ、ジャドーに島を乗っ取られる前に何としてでも阻止しないと、みんなの命がない!!・・・と心に思いながら出航の合図を出した。

 

   ナミ「ログも溜まった、このまま出航するわよ!!」

  ルフィ「おお、まかしとけ!!」

      ルフィは声を張り上げて、係留ロープをほどいた。

       

      ゴーイング・メリー号は出航した。また、次の目的地へ・・・

 

 ロビン「それにしても不可解だわ・・・」

   ナミ「え、何が?」

  ロビン「なぜ、ジャドーは彼女達だけを残して島を略奪したのか・・・」

      ロビンは妹達を見て怪訝そうな表情で尋ねた。

   ナミ「そうだね、何か理由があるのかしら?」

 ロビン「昨日、ツインテールのお嬢さんから聞いたら、ジャドーは略奪する前に自分の名前を言ったらしいわね」

   ナミ「ええ、確かそう言っていたわ・・・」

ロビン「結論から考えると、自分達の素性が他人に漏れないためにも1人残さず連行して行くことが秘密組織としての責務・・・政府からも任命される程の策謀力なので、ジャドーはその事も熟知しているはず・・・」

   ナミ「たまたま浚い損ねたとでも?・・・なにせ大勢の住民達なのだから・・・」

  ロビン「いいえ、七武海候補の実力者が自分の能力で半端なミスを冒すのも考え難いわ・・・それに大勢の住民だのに12人の姉妹に定まっているのも余計変だと思うの」

   ナミ「確かに偶然でも12人の姉妹のみが残されたのも、不自然すぎるわね・・・」

      快走している船で不信感を抱いているロビンと、その説明に思考しているナミ、その双眸はそよ風に煽られながらも決して視線をくずさない。

      その会話に、気になる咲耶も2人のところに来た。

   咲耶「あの・・・大変失礼ですけど、2人で何をお話しているのですか」

   ナミ「ううん、大した話じゃないの。ちょっと、あなた達の島について少し気になることがあって・・・ね、ロビン」

 ロビン「ええ・・・」

      ナミは、うまく話を逸らした。

   咲耶「私たちの島に何かあるのですか・・・」

   ナミ「いえいえ、ちょっと財宝がないかなあ〜って!」

      ナミはへらへら笑いながら冗談っぽく言った。本当にあってほしい・・・と本心では願っていた。

   咲耶「財宝ですか・・・?」

   ナミ「べ、別に何でもないのよ!(笑)・・・さあ、お茶にしようかしら!」

      そう言ってナミは、無理に彼女の両肩を押さえながら、マストの近くの円卓に案内した。

   ナミ「サンジくん!!・・・お茶3人前ね!!」

 サンジ「かしこまりました、ナミさ〜ん♪」

      遠くでナミのオーダーに、気前よく喜ぶサンジはすぐに了解した・・・

 

      そして、彼女たちの真向かいには、ルフィとウソップがのんびりと釣りをしていた。これも食糧調達のためである。

  ルフィ「ナミの奴、何はしゃいでいるんだ?」

ウソップ「新手な金せびりの予行演習でもしているんじゃねェの?」

      ウソップはナミに対してイヤミを言った・・・

 

      バコ〜〜ン!!!

 

      突然、ウソップに樽が投げ込まれた!

  ルフィ「大丈夫か、ウソップ・・・」

ウソップ「あ・・・、ルフィ・・・おれはもうだめだ〜(ドテン)」

      ルフィがボーとした感じで言うと、ウソップは頭から血を出して倒れた。はっきり言ってマヌケだった・・・

 

      後甲板では・・・

 

   ゾロ「・・・271!!・・・272!!・・・273!!・・・274!!」

      上半身裸で、大量の汗を流しながら鉄のバーに連結させた500キロ相当の重りを持ち上げて、素振りの筋力トレーニングをしている。太い首筋に、筋肉で盛り上がった傷痕の胸、そして上腕二頭筋が大きく膨れあがっている図太い腕はプロのボディービル並の体格だ。

   ゾロ「・・・275!!・・・(クソ〜、ウォーミングアップしねェと体がなまっちまうぜ)」

      おいおい! 今ので、ウォーミングアップかよ・・・

     

     「えいッ!! えいッ!!・・・」

 

ゾロ「・・・ん!?」

とその時、ゾロの耳に何かが聞こえた。

 

     「・・・・・」

 

   ゾロ「気のせいか・・・とにかく修行に集中だ!!」

      目を閉じながらつぶやく。そして黙々とトレーニングを続ける・・・

  

春歌「えいッ!! えいッ!!・・・」

   ゾロ「ってか!! 何やってんだ、おめェは!!(ツッコミ)」

      と彼のすぐ横で、春歌も長刀を持って素振りの練習をしていたことにようやく気づいた。

   春歌「あら、ワタクシも御汗を流しながらお稽古に励んでいるのですが・・・」

   ゾロ「こんな所で修行するとあぶねェだろう!!」

      ゾロは注意した。500キロの重量物を持ち上げているため、近くにいては危険だからである。そもそも500キロを持ち上げる自体、人間業でないのだが・・・

   春歌「大丈夫です! 兄君さまをお守りするための修行なら、たとえ危険な場所でも・・・」

      春歌は完全にボケていた。

   ゾロ「おいおい!・・・何かずれてるぞ!!」

   春歌「いいえ、愛しい兄君さまの護衛にお務めすることが大和撫子としての当然な義務・・・ポポポッ!」

      ゾロの言葉なんかお構いなしに春歌は顔を赤らめた。完全に自分の世界に入っているご様子だった。

   ゾロ「誰もそんなこと言ってねェだろうが!!!」

      彼女の言っていることに訳がわからず、つっこんだ。

 

   春歌「それにしても、なぜ悪党なんかに刀があるのでしょうか・・・」

      春歌は突如話を変えた。

   ゾロ「そんなの、しらねェよ!」

   春歌「刀は、本来善良な方が保持すべき物!・・・だのにどうして悪党が使用なさっているのかがワタクシには御理解出来ません!」

      春歌は納得いかないご様子で下唇を噛んだ。確かに・・・この大海賊時代、海賊達が戦闘する目的で刃物や銃を使用するのはこのグランドラインでは必要不可欠なのだろう。彼女が言った理念なんてほぼ無意味な事だった。

   ゾロ「おい、それはおれにも対する当てつけか!?」

      実はゾロも、【東の海(イーストブルー)】で『海賊狩りのゾロ』として名を轟かせた賞金稼ぎだった。悪人相のようなむすっとしている表情は、過去に名のある海賊達を何百人と斬って来たためなのか、その凶暴さを恐れられた面影はやはり窺えない。今では『鋼鉄斬り』さえ会得した実力は麦わら海賊団の8千万ベリーの賞金首だ。

   春歌「別にそう仰有っているつもりではなくて、ワタクシとしては悪党に刀を保持する自体が間違っていると言うことです!」

   ゾロ「い・・・いい加減、てめェはその言い方やめろ!!」

   春歌「どうしてですか!!」

   ゾロ「あのパクリ女の事、想い出しちまうじゃねェか!!」

   春歌「パクリ女って聞かれても・・・ワタクシにはそのような方が誰なのかは存じません!!」

      その時ゾロは、海軍の女剣士、たしぎの事に脳裏をよぎった。彼にとって唯一苦手な人物だ。以前、ローグタウンで出会った時に、彼女がちょうど春歌と同じような事を言っていたのだった。ゾロがその名で呼んでいるのも、自分が持っている名刀、『和道一文字』を没収しようとしていたためである。

 

 

      ある一隻の海軍軍艦の場面・・・

 

  たしぎ「ヘックション!!」

      突然くしゃみをした・・・

スモーカ「どうした、たしぎ!・・・寒いのか!」

      海軍本部大佐のスモーカはビシッと言った。背中に軍艦マーク〈MARIN〉をプリントしたパーカーを着用し、ボサボサ頭をオールバックして、葉巻を二本口に銜えているガッチリとした男だ。彼には必ずたしぎという女剣士がパートナーとして付き添えている。たしぎもまた、海軍本部の曹長である。

 たしぎ「いいえ、寒くありません! ただ・・・誰かがうわさしているような気がするんです」

スモーカ「誰がうわさするんだ?」

 たしぎ「おそらく、最も因縁深い人じゃないかと・・・」

      その時、たしぎの表情が鋭くなった。実はゾロの事である。

スモーカ「そう堅くなるな、いずれにせよ、我々はしきり直しだ・・・だが、油断はするな!」

 たしぎ「はい!・・・スモーカ大佐!!」

 

      海軍軍艦の場面、終わり・・・

 

 

      ゴーイング・メリー号の場面に戻り、その船室の中・・・

      チョッパーが絶えず診察や薬の投与を受けたおかげで、鞠絵は次第に元気を取り戻している。

チョッパー「心配しなくても大丈夫だよ、副作用になる成分は一切入っていないから」

   鞠絵「本当にありがとうございます」

      鞠絵は、チョッパーから頂いた薬をゆっくり飲んだ。

   可憐「副作用の事も考えてくれているんですね、トニーさんえらいわ」

チョッパー「た、たいしたことなんかねェよ・・・コノヤロ〜!!・・・エヘエヘ!」

      チョッパーは照れて笑顔をほころばせた。それを見て可憐はにっこりと微笑んだ。

   可憐「あ、それと酔い止め薬買ってきたわ、はい・・・」

   鞠絵「わあ、ありがとうございます」

      可憐がその薬をそっと鞠絵に渡すと、久しぶりに喜び笑顔を見せた。

   可憐「お金はナミさんから借りたの」

チョッパー「おお、すげェ〜!」

   雛子「なにがすごいの?」

チョッパー「可憐、お金いっぱい持っているんだ〜!」

   可憐「そんなことないです・・・少しもないです・・・」

      ガ〜〜ン・・・(ナミへの返済大きいぞ!)

      そこで、千影が来た。

   千影「随分元気そうだね・・・・・ついでにこれも飲むといいよ・・・・・」

   鞠絵「あ、はい・・・」

      千影は自分が調合した薬を鞠絵に渡した。

   雛子「何のおくすりなの?」

   千影「秘薬さ・・・・・異常気候の発病を抑制するための・・・・・コブラとマムシのエキスを調合した秘薬をね・・・・・結構大変だったんだ・・・・・」

   鞠絵「う、うれしいです・・・でも、お薬と言ってもわたくしの体に合わないものもありますよ」

   千影「心配しなくてもいい・・・・・副原材料に大豆イソフラボンや卵殻カルシウムなどの天然由来を厳選して配合した素材を含めたから・・・・・身体にもやさしいんだ・・・・・」

   雛子「ほんと!? じゃあヒナでも飲めるの?」

   千影「フフ・・・・・もちろんさ」

   白雪「良かったですね、鞠絵ちゃん」

   鞠絵「はい、わたくしはすっかり元気になりました・・・これも皆様に助けて頂いたおかげです・・・これからも是非皆様のお役に立てたいと思っています」

      鞠絵は心から感謝した。もしチョッパー達が助けなかったら、このグランドラインで彼女は今頃無事ではいられなかったのだろう。人にすがらないと生きていけない自分の弱さを知っている鞠絵は、心から見守ってくれている彼らを少しでもお役に立ちたいと思う気持ちこそが、彼女にとっての真の謙虚さと言うものである。

   可憐「鞠絵ちゃんもえらいわ!」

ミカエル「ワン!!」

 

      その時、階段から物音を出しながら、誰かが降りてくる。

 

   鈴凛「新しくベッドが完成したよ!」

      鈴凛が階段から顔を出した。

   四葉「四葉もお手伝いしました」

      四葉も彼女の後から降りてきた。

サンジ「どこに置けばいいのかな〜・・・」

      サンジが階段でベッドを持ちながら愛想よく言った。

   鈴凛「あ、鞠絵ちゃんが寝ている所にお願いね」

  サンジ「だそうだ・・・ほら、運ぶぞ!」

ウソップ「なんでおれまでこんなことしなきゃあならねェんだよ〜!」

      ウソップがヒーヒー言いながら嘆いた。

  サンジ「ウダウダ言わずに運べ!!」

      そう言ってサンジは鞠絵の寝室までウソップと2人で担いできた。

ウソップ「おいおい・・・何もおれじゃなくても空いているメンバーはここにたくさんいるだろう」

      ヒーヒーと疲れた顔をして嘆いた。

  サンジ「みんなかよわいレディー達だ、頼んだら失礼だろう!」

   雛子「そうだよ〜!」

      サンジの言葉に雛子も納得した。

ウソップ「おめェまで言うなよ!」

 

  鈴凛「さあ、鞠絵ちゃん、ベッドに寝てみて・・・」

   鞠絵「はい・・・」

      そして、鞠絵はゆっくりとベッドに横たわった。

   鞠絵「わあ、ふかふかで気持ちいい・・・それに、船揺れもしませんわ」

ミカエル「ワン!」

   四葉「実はベッドの脚部に振動を吸収するためのスタビライザー装置が付いているのデス」

      四葉はルーペで脚部を覗きながら言った。

   鈴凛「えへへ・・・私が設計して改造した試作ベッドだけど、どうやら成功したみたいだね」

ウソップ「おめェ、すごいな」

  鈴凛「まあね、こう見えても発明は大の得意なんだよぉ」

   雛子「失敗もあるけどね」

 

      そして、咲耶が降りてきた。

 

   咲耶「わあ、鞠絵ちゃん・・・ベッドのデザインきれいになったわね」

      ピンク色をしたマーガレットの模様が鮮明に見えた。

   鞠絵「うふふ、デザインは四葉ちゃんが考えましたの」

  亞里亞「鞠絵ちゃん・・・・・ごうかなおへやで・・・・・お姫さまになっているみたい」

      船室と隣り合わしている約4坪の寝室は豪奢なインテリアだった。

   可憐「ほんとに、素敵な寝室・・・」

   鞠絵「羨ましいです・・・こんな場所で眠れる人って・・・」

  サンジ「なあに、この場所は鞠絵ちゃん専用だ!」

      女の子に関しての優男はすぐに了解した。

   鞠絵「え、でも、こんな高級な寝室、わたくしには・・・」

 サンジ「遠慮することはないんだよ、気に入ってくれたら・・・」

   鞠絵「いいんですか・・・」

 サンジ「おお、もちろんだ。本当はナミさんのものだけどね」

   鞠絵「わあ、うれしい・・・」

      鞠絵は顔がほころびた。

チョッパー「ナミ、怒らないか?」

  サンジ「大丈夫だ、この位ナミさんも許してくれるだろう」

      彼の了解を聞いた咲耶は・・・

   咲耶「ああっ・・・鞠絵ちゃんいいな〜、高級な寝室で・・・」

      羨ましく思った。

  サンジ「もし、よろしければ・・・咲耶ちゃんもこのベッドで寝ても構いませんよ〜

   咲耶「え、いいの!?」

   可憐「でも、鞠絵ちゃんが寝ていますよ?」

  サンジ「一緒に寝ればいいじゃない〜・・・」

咲耶&鞠絵「えっ?」

      サンジの言葉に2人は顔を少し赤らめた・・・

   咲耶「それじゃあ、1日交代ってのはどう?」

   白雪「待ってですの、咲耶ちゃん!・・・せっかく鞠絵ちゃんが船酔いにならない目的でみんながベッドを譲ったのに、ここで無理させたらまた病状に響くのですの」

   鞠絵「わたくしなら、大丈夫です・・・酔い止め薬を常備していますし、千影ちゃんから頂いた秘薬もありますので、多少の船揺れでは支障をきたしません・・・ですからよろしいですよ、咲耶ちゃん、1日交代といきましょう」

   咲耶「さすが、鞠絵ちゃんお優しい・・・じゃあ、今日は鞠絵ちゃんで、明日は私ね♪」

   鞠絵「はい」

      鞠絵はにっこりしながら了解した。

   四葉「うう〜・・・四葉もねた〜い・・・」

      少し涙を垂らしながら羨ましく言った。

   雛子「ヒナもずっとこの部屋がいいなあ・・・」

  亞里亞「亞里亞も・・・・・」

      人差し指を口に銜えながらうらやましく言った。

  サンジ「まあまあ、この部屋は君たちみんなのものにしよう」

   雛子「ほんと!?」

   咲耶「きゃ〜、やったあ!! ありがとう・・・サンジさん!(はあと)」

 サンジ「いや〜・・・当然のことですよ〜、お姫様

      咲耶に甘いお礼をされたサンジは目がハートになり喜んだ。

   鈴凛「でも、一部屋で全員じゃあ窮屈じゃない」

      どうやら12人全員分のスペースではせまいようである。

  サンジ「大丈夫さ・・・上にも部屋があるから分けて使うといい・・・」

   可憐「いいのかしら・・・ここの部屋を使用している人達に何かわるいわ」

  サンジ「いえいえ・・・ボクは大歓迎だよ!」

      サンジは妹達が船室の部屋を気に入ってくれて大喜びだ。

ウソップ「まあ!!・・・おれの寝室は特別工場付きの盛大な場所があるからな!」

  サンジ「はぁ!・・・何言ってんだ、ここの二部屋はもうレディー達専用と予約済みだ!!」

ウソップ「お、おい・・・おれ達はどこで寝ればいいんだよ〜・・・」

サンジ「今日からお前らクソ野郎どもは外だ!」

ウソップ「そんないやだよ〜!外なんてよ〜・・・(泣)」

チョッパー「そうだよ、寝ている時に悪者に襲われたらどうするんだよ〜・・・(泣)」

      これはまさに男女差別か!・・・ウソップとチョッパーはびくびくしながら言った。

 サンジ「そんなの、神経過敏にしながら寝ればいいじゃねェか!!・・・あのクソ剣士みたいに」

ウソップ&チョッパー「んなこと、できるか!!(ツッコミ)」

      もちろん出来ない。ゾロのように熟睡中に殺気が込められた時の危険反応なんて、戦闘未熟なこの2人には到底無理である。

  サンジ「おら、レディー達が気持ちよく寝るんだ、お前らの汚い部屋さっさときれいにしてこい!!」

ウソップ「おめェがやれよ!!(ツッコミ)」

 サンジ「お前らはナミさんから罰当番の指示、受けただろう!」

チョッパー「あ、そうだった・・・」

ウソップ「そうだったって、おまえ・・・」

      ウソップはぎくしゃくと言った。態度のでかいサンジなんかに頼まれたくないと断るつもりだが、相棒のチョッパーがナミからの掃除罰当番の指示を受けたため、渋々従う彼であった。そもそも罰当番の原因は、本人なのだから・・・

千影「フフ・・・・」

      その時、千影は微笑しながらみんなの場所から外れ、ゆっくりと階段を上って行った。何か考えているのだろうか・・・

 

      夜になり、外は真っ暗な星空に少し冷え切った北風がゴーイング・メリー号を煽って、小波に流されながら小刻みに進行している。メインマストが建っている中央には夜の爽快感を感じさせる快適さに、みかん畑の下にあるデッキハウスの舷窓からは美しくあかりが照れされている。

厨房ではダイニングテーブルで晩餐をする人もいれば、入浴する人もいる。人数が多く、全員一斉では時間もかかるので、2交代で済ませた。

 

   四葉「お風呂の後は、やっぱり気持ちいいデス」

   雛子「ヒナも浴び浴びして、きれいになっちゃった」

  亞里亞「亞里亞も・・・・・きれいに浴び浴びして・・・・・あたらしいお洋服も着ちゃった」

   ナミ「3人とも、ご飯がはいっているから食べてきて」

 四葉&雛子&亞里亞「ハ〜イ!!」

      ナミが着替え場で、風呂あがりの雛子と亞里亞に頭を手早く拭いてあげた。彼女達のお母さんみたいに面倒を見ていた。

   ナミ「ふ〜、疲れた・・・」

      一息つきながら、額に付いている湯気を右腕で払い除けた。浴室には、春歌と鞠絵がまだ入浴中である。

   春歌「鞠絵ちゃん、お背中を流しましょうか・・・」

   鞠絵「あ、はい・・・」

      ボディーソープで洗い終えた鞠絵の背中を春歌がおもむろに洗面器でお湯を流している。

   春歌「いつ見ても鞠絵ちゃんって、本当に麗しいお肌でいらしてますわね」

      鞠絵の細い腕とスレンダーで透き通るような白い肌を見て羨ましく感じた・・・小学生にしては贅沢すぎる程の美肌だった。

   鞠絵「そんな・・・恥ずかしいです〜・・・」

      鞠絵は自分の細身の身体を両腕で隠しながら顔を赤らめていた。

   春歌「ワタクシも鞠絵ちゃんのようなお肌に憧れます・・・そしたら、兄君さまもよりお気に召してくださるでしょうに・・・」

   鞠絵「いいえ・・・春歌ちゃんの方こそ端麗なお肌でいらしてますわ。長刀でお稽古したためであって流石に身体も引き締まっています」

      彼女はにっこりと言った。

   春歌「うれしい!!・・・鞠絵ちゃん、たいそう奥ゆかしいですわ」

   鞠絵「はい・・・ありがとうございます」

      湯気のこもる中、2人は浴室で褒め言葉を繰り返した。

   ナミ「あんた達、早く終わらしたほうがいいわよ。長風呂は体によくないわよ」

      ナミが2人の会話を横切るかのように、浴室に顔を出した。

春歌&鞠絵「あ、すみません!」

 

  ルフィ「おい、ナミ!・・・スープが服に汚れちまった、すぐに洗ってくれ!!」

      と、突然ルフィが浴室の窓から顔を出した。

   鞠絵「えっ・・・」

春歌「な、何ですか・・・」

      2人はルフィを見ると、愕然としながら裸体をすぐタオルで隠した。

   ナミ「人の入浴中に、いきなり顔をみせるんじゃないわよ!!!」

 

      バコ〜〜ン!!!

 

  ルフィ「ぐあッ!!」

      ナミは怒って、鉄製の石けん箱をルフィの顔面目がけて投げつけた。ルフィは鼻から血を出しながら、後方に倒れていった。

  ルフィ「いって〜え!・・・何でナミの奴、あんなにぎすぎす怒ってるんだ!」

   ゾロ「バカ!・・・分際をわきまえねェから、こうなるんだろうが!」

      彼の近くにデッキテラスで胡座をかいていたゾロが言った。

   ゾロ「それにしても、食後の月見酒は格別なもんだぜ!」

      デッキテラスにもたれながらのんびりと夜空を見上げた。

  ルフィ「おい・・・月なんてどこにもねェぞ!」

      ルフィはツッコミを入れた。

   ゾロ「月なんざ、なくても月見酒は月見酒だ!」

      瓶に口を付けながら、ラッパ呑みした。

  ルフィ「訳わかんねェぞ!」

      2人はどうやら、月見酒と言う意味が理解していないらしい・・・

 

      しばらく時間が経ち、ダイニングテーブルでは、大半の人が食事を済ました。サンジと白雪は忙しそうに洗い物をしている。

 

  サンジ「人が多いと洗い物も多くなるな・・・白雪ちゃん」

   白雪「はい・・・慣れていますね」

  サンジ「まあ、この位、大丈夫だ・・・」

      サンジは余裕な顔だった。彼は『バラティーエ』と呼ぶ海上レストランで副料理長の担当をしており、大勢の客達の配膳を10年間も経験していたため、多少の洗い物には苦にならなかった。

 

      ダイニングテーブルでは、入浴を終わらせた人たちが夕食に入っている。今回のメニューとして、秋刀魚のソテーにポテトサラダのセットが準備されてあった。

   雛子「いつ食べてもおいしいね」

  亞里亞「杏子の寒天もおいしい・・・・・」

      相変わらず甘いもの好きの亞里亞は、やはりデザートには目がない。

   四葉「四葉はポテトサラダの方が、たまらなくうまいデスね!」

   咲耶「それはサンジさんと白雪ちゃんが鍛錬に料理しているから最高よ・・・ね、可憐ちゃん!」

   可憐「うん・・・」

      その時、可憐は哀しげな表情でゆっくりとご飯を食べた。

   鞠絵「可憐ちゃん、どうかなさったのですか・・・」

      心配そうな顔で、可憐に質問した。

   可憐「何でもないの・・・」

   咲耶「あ、そう言えば昨日、可憐ちゃんの誕生日だったよね」

      切ない可憐を見つめて咲耶はふと頭に思い浮かべた。

   四葉「そうでした!! すっかり忘れたデス!」

   雛子「でも、みんなプレゼントなくしちゃっているよ。」

   咲耶「ジャドーのアナアナの実による奇妙な力で、持ち物が全て失ったんだわ・・・」

  サンジ「え〜、昨日誕生日だったの! そんな大事な事言ってくれれば、盛大に祝ってあげたのに〜

      サンジがメロメロと横から首をつっこんだ。

   春歌「それで元気をなくしていらっしゃるのですか?」

   可憐「・・・・・」

      春歌の質問に可憐はうつむいて小さく首を振った。どうやら誕生日の事じゃないらしい。

   春歌「では・・・他に何か思わしくないことでもあったのですか?」

   可憐「本当に、何でもないの!」

      この時、可憐はすぐに厨房から去った。

   春歌「可憐ちゃん・・・」

      可憐の突然の行動に春歌は、一層不安になった。

      小波が響く静寂な夜の海・・・デッキハウスから出てきた可憐が、後甲板の船縁でがっくりと膝をついた。

   可憐「これからどうなってしまうの・・・」

      涙を流す少女の姿を見ているのは、誰もいない。

   可憐「どうなるの・・・お兄ちゃん・・・」

      突然の奇怪な出来事で、お互い別れてしまった兄と妹達・・・小さく嗚咽しながら、可憐は想い人の名を唱えた。

     

      一方、ナミに飯抜きという禁止令を告げられたウソップだが、妹達が爛々と晩餐をしているのに対し、自分は主甲板でログポーズを見ながらがっかりした様子で進路をとっている。

ウソップ「わいわい、がやがやといい気なもんだな〜、こっちはめし食えねェんだぜ・・・ナミの奴め、ちくしょう〜!!(グ〜〜〜)・・・あ〜、はらへった・・・」

      その時、ウソップの腹から虫の音が聞こえた。完全なピーク状態である。何とか明日までに持たなければと強い意志を持つ彼だが、もはや限界に達していたのだ。自分にとっての我慢と言う意志は、どうしても空腹には通用しなかった。

 

      ウソップがぶつぶつ喚いている時に、鞠絵がゆっくりとお膳に乗せた夕食を持って彼の所に来た。

   鞠絵「あの・・・お腹空いていらっしゃるのですか」

ウソップ「それ、もしかして、おれのために持って来たのか・・・」

   鞠絵「はい、今日何も食べていないと聞いたものですから・・・わたくしが準備してきたんです」

      その時、ウソップは涙を流した。

ウソップ「いや〜、すまないなあ! おれのために・・・ありがとよ」

      ウソップは自分の涙を片腕で鼻音立てながら拭いた。あまりにも鞠絵の優しさに心を惹かれたのだ。あのナミなんかと比べたら、まさに天使と悪魔だ。

   鞠絵「いいえ、こんな遅くからお疲れさまです」

      鞠絵は微笑ましく挨拶をした。そして、ウソップは遠慮なくご馳走を頂いた。

ウソップ「それにしてもおまえ、体大丈夫か・・・こんな肌寒い海に出て、あまり無理しないほうがいいぞ」

      ウソップは病弱な彼女に気を遣った。

   鞠絵「夜の海を眺めてみたかったんです・・・わたくし、船デッキからの夜景、初めてなものですから・・・」

      珍しいそうに辺りを見渡す。今まで、船酔いで室内に隠ってきた鞠絵にとって、甲板からの展望はまれな体験である。

   鞠絵「すごく気持ちいい・・・これで兄上様と一緒に美しい夜空でも眺められたら、2人きりでの最高のおもてなしが実感できるでしょうね・・・」

      鞠絵は目を閉じながら大きく息を吸った。

ウソップ「おまえを見ていると、何だかカヤの事想い出しちまうだよな・・・」

      深刻になったウソップが次第にしんみりさしてきた。

   鞠絵「お知り合いですか?」

ウソップ「カヤは、おれが住んでいた村での大金持ちのお嬢様だけどよ・・・あいつ、おまえと同じで体が弱くてよ・・・しかも小さい時に両親も亡くしちまってさ、毎日一人ぼっちでさみしい顔しながら、ベッドに隠っていたんだ・・・」

      ウソップは再び、自分のグショグショ涙を片腕で拭いた・・・彼の故郷には村一番の富豪、カヤと呼ぶ娘が住んでいた。彼女がちょうど今の鞠絵と同じ立場であったため、ふと悲しくなったのだろう。豪邸な1人部屋でカヤが憂鬱な時には、いつもウソップが元気付けに『冒険譚』のお話をさせてあげたこともあった。そして、島から出る時は、自分とっての唯一の夢『勇敢な海の戦士』になるという約束を彼女に誓ったこともある。

   鞠絵「まあ、そうだったのですか・・・」

ウソップ「でもよ・・・あいつ医者になるって言って、今は切磋琢磨に勉学に励んでいるんだ」

   鞠絵「実はわたくしも、医者は将来の夢の1つで、そのために療養所で難しいお勉強をしているんです」

ウソップ「そうか!・・・頑張れよ!!」

      ウソップは鞠絵をカヤと想いながら、渋い顔で彼女の肩をポンポンと軽く叩いて励ました。

 

      みんなが寝静まった夜、船室の二部屋では妹達が二手に分かれてすやすやと寝息を立てて熟睡に入っている。用心係として各部屋にナミとロビンが1人ずつ入り口で仮眠している。

   可憐「・・・お兄ちゃん」

      涙を滲ませながら目を横たわっていた。やはり兄がさらわれたことに悲愴感を抱いているのだろうか・・・寝ている時も彼女の心の中には常にさみしさが付きまとっていた。

 

      ナミの寝室・・・

   鞠絵「暖かい・・・本当に私だけ豪華な寝室で静かに眠れるなんて、夢みたい・・・まるで、このお船の王女様になっているみたいよ・・・ミカエルはどう思いますか」

ミカエル「ワン・・・」

気持ち良さそうに鞠絵は微笑ましく犬のミカエルとお話をしている。海賊としての原則なら、船長のルフィがこの寝室に寝るはずなのだけど・・・

 

そのルフィはというと・・・

ルフィ「グ〜!! グァァ〜!!」

海風が吹く夜空にメインマストが建っている中央のデッキで、不規則ないびき音を立てながら、大の字を描いて無邪気に寝ている。この場所は船揺れが最も激しく居心地の悪い場所である。

   ゾロ「グ〜!!! ガ〜〜!!!」

      ゾロも船揺れする中央デッキの船縁で胡座をかきながら寝ている。うるさいいびき音を立てながらも、3本の刀だけは常に手元に掛けている。刀は彼にとって大切なものであり、一心同体でもあるからだ。この3本の武器があるからこそ、ゾロは数多の強敵を打ち負かしてきたのだ。

ウソップ「ヒィ〜、寒い・・・ヘックション!!!」

      ウソップはくしゃみをしながら、寒そうに寝袋で寝ている。そして、チョッパーは毛布一枚で、鼻風船を膨らましながら爆睡している。

 サンジ「風向きには問題ないな・・・それにしても、ルフィはおかしな寝方するもんだな・・・ガキそのものじゃねェか。」

      メインマスト頂上の見張り台から、サンジは煙草を吹かしながら見下ろした。主力の2人とウソップ、チョッパーが外で無様に寝ているのをみると、それはまるで下っぱの海賊達のようだった。

 

 

                                                            続く

 


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